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「800字文学館」

バイエルン国立歌劇場日本公演その2 オペラ「魔笛」

川口 ひろ子

 9月27日バイエルン国立歌劇場日本公演2017、モーツァルトの「魔笛」を鑑賞した。
 厳しい試練を乗り越えて出世する青年と、お気楽な暮らしが大好きな若者、勝ち組、負け組いろいろであるが、人間はそれなりにみんな幸せになれる。「魔笛」は、そんな嬉しいメッセージ満載のオペラだ。
 今回の舞台は40年前に初演出されたものでお話は童話仕立ての絵本の世界で展開する。装置は昔ながらの書割や幕が使われ、夜空に光る満月、湖畔に茂る木々など、美しく、どこか懐かしい背景が次々と現れる。

 アッシャー・フィッシュの指揮は手慣れたものという感じだ。重厚な説教の場面や滑稽なおふざけのシーンなど目まぐるしく変わる物語を追って、オ-ケストラをテンポよく進行させ多彩な音を紡ぎだす。
 歌い手では真面目組のタミーノ、パミーナの主役の2人が光っていた。清涼感のある歌唱とゆったりとした演技は気品に満ちていて、今後どのような歌手に成長するか楽しみだ。
 一番ブラーボが多かったのは、難関のコロラトゥーラを楽々と歌った夜の女王だ。しかしノリはよいが声が細く、迫力と凄みが足りない。
 ベテランのマッティ・サルミネンはザラストロを歌った。堂々とした演技は風格を感じさせるが歌い終わりに息切れするシーンが多い。原因は加齢か長旅か……。
 パパゲーノとパパゲーナ、人気抜群の負け組カップルは歌唱力演技力ともに今一歩、愛嬌不足で一向に盛り上がらず残念だ。

 日本で愛好者の多い伝統的な演出、若手中心の清潔感の溢れる歌手陣、私共は意味不明の前衛だけでなくこのような舞台の御用意もあります、というPRも聞こえてくるような舞台だ。難解な演出を必死に追ってきた私には40年前のこの舞台はいささか物足りない。
 しかし音楽面では、ドイツの名門オペラハウスの演奏水準の高さ、モーツァルトの時代から連綿と続く伝統の凄さをこの耳で実感するなど、有意義なオペラ体験の出来た今回の公演であった。

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