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「800字文学館」

仙台雑感

塚田 實

 古希の祝いも兼ねて2泊3日の仙台・松島旅行をした。松島では、芭蕉の「おくのほそ道」の文章そのままの景観を楽しみ、瑞巌寺の鮮やかな紅葉を愛でた。松島湾のカキも最高だった。
 今まで仙台には仕事で行ったことはあっても観光はしなかったので、仙台市内の観光スポットを循環するバス「るーぷる仙台」に乗った。仙台駅前から乗ると直ぐに満員になった。

 二つ目の「晩翠草堂前」で降りた。乗客で降りたのは私たち二人だけだった。土井晩翠作詞の「荒城の月」なんて興味ないのだろうか。晩翠は晩年をここで暮らし、生涯を終えた。愛用のベッドが置いてあり、思わずベッドに向かって合掌した。

 バスは窓外を案内しながら進む。「右に見える家は、魯迅が暫く下宿していた『佐藤屋』です」。運転手が説明したその先には古めかしいが雰囲気のある家があった。しかし乗客は魯迅の話に一向に反応を示さない。中国にいたときは北京や生まれ故郷である浙江省紹興の魯迅博物館を訪れ、魯迅の業績に触れて深く感動したものだ。

 市内北の泉地区には三菱地所が開発した広大な泉パークタウンがあり、その一郭にあるホテルに泊まった。ホテルに隣接する宮城大学と宮城県図書館を散策した。
 大学キャンパスでは、近代的な美しい建物と池を配した自然が見事に融合していた。深紅の紅葉が池に映っているのにひかれて池を一周しようと思い、日曜日にもかかわらず学校にいた女子大学生に声をかけた。「この池の周りは一周できますか?」「行けますが、熊がでるので立ち入り禁止のはずです」行ってみると「危険‼熊出没注意」とあり、立ち入り禁止になっていた。
 図書館は長大な建物で、横に遊歩道への入口があった。ここにも「ヘビに気をつけよう」「ハチに気をつけよう」の文字が。考えてみれば動物たちの棲みかに人間が開発と称して分け入ったのだ。同じ地球の住人として、人間と自然とのバランスの取れた共棲を目指したいものだ。

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