雑音に埋もれた信号
かつて、送られて来るアナログの電気信号は雑音から飛び出している綺麗な波形を単純に検出し認識した。しかし、デジタルの時代では雑音に埋もれた信号を極端に低い電力で送信しても機能する。但し、受ける側に事前の知識が必要だ。
デジタルの通信文は、総て単純な1と0を複数個の組み合わせた符号である。1の信号は雑音より少し振幅が高い程度の振幅で、受ける側は受信するタイミングを予測して、雑音を含む信号をメモリに蓄える。この1と思われる信号を沢山受信して、メモリで加算する。信号の振幅は加算する度数に比例して高くなるが、同時に受信した雑音の振幅は加算数の平方根倍にしか増大しない。即ち、加算2回なら、信号の振幅は2倍になるが、雑音の振幅は1・4倍である。この過程を繰り返すと信号の振幅は顕著に高くなり、雑音を大きく超え明確に認識できる。お馴染みのGPS衛星の信号はこの形式である。
さて、これを民意の伝達に当てはめると、デジタル方式は民主的な政治体制下に相当して、アナログ方式は権威的に相当する。デジタル方式の信号の受信には受信信号を事前に予測する点が従来と異なる。受信信号は一見雑音に埋もれているが、わずかな兆候を予測により掴んで高度な処理を行い有意義な信号を取り出す。これは国民全体の広がりの中から、民意を引き出す過程に似ている。一方、権威主義的な国では民意という雑音を押しのけ、自分の主張を聞けと絶叫のような信号を送信する。雑音即ち、広がった国民の声は邪魔になる。
相手から正確に情報を引き出す時、情報に関する多くの条件を事前に知っていると電気信号に限らず、小さな努力で大量の情報を引き出せる。例えば、大衆の心理を予測して、テレビ・コマーシャルでは有名なモデルが商品を宣伝する。聴取者はモデルの顔に違和感を持たないので、次の商品の場面も割合容易に頭に入りやすい。もっとも、相手の気持ちを察する目的が、おもねるためでは困りますが。