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「800字文学館」

光合成

稲宮 健一

 日経の夕刊は岡山大学の沈建仁教授が光合成に欠かせない蛋白質の分子構造を突き止めたと報じた。画期的な成果だ。ご存知のように植物の葉の葉緑素は空気中の二酸化炭素を吸収して、太陽光を浴びて糖と酸素を作り出す。
 早速、光合成で検索すると、岡山大光合成研究センターは中国、ドイツの大学と共同で光合成の触媒である有機化合物の分子構造を突き止め、これに極めて近い化合物の合成に成功したと記している。
 また、大阪市立大学のホームページでは人工光合成ハウスの建設の記事が目に留まった。この研究は家の屋根から太陽光を取り込み、光合成で二酸化炭素と水からギ(蟻)酸を生成して、そこから水素を取り出し、電力を発生させる。そのエコなモデルハウスを石垣島に造るとのこと。最近の研究では水素の取出し効率が向上している。
 動物が自然界から食料を獲得する食物連鎖は植物が作る糖が入口になる。この最初の部分は決して他の方法で代替できない。もし、この反応が人工的に工業化できるなら食料の獲得に革命的な変化が起きる。

 人類が最初に食料の増産を化学の力で可能にしたのは空中窒素の固定である。空気中の窒素は非常に安定した分子なので、植物の肥料に窒素化合物が必須と分かっていたが、人工的に製造できなかった。かつて、新大陸の天然のチリ硝石は貴重な肥料だった。この不可能を可能にしたのは二十世紀初頭にドイツのフリッツ・ハーバーである。高温、高圧の条件下で、試行錯誤の結果アンモニアの工業生産を達成。化学肥料の始まりである。大量のエネルギーが注ぎ込まれ、化学肥料が実現したので、食料の増産に寄与したが、同時に人口も増え、総ての飢えはなくならなかった。

 光合成は太古の昔、大気が厚く二酸化炭素で覆われていた頃、藍藻がこれを吸収し永い期間酸素を発生させて現在の大気になっていった。産業革命以降悪化した状態が、再びこの反応が人為的に活性化させ、温暖化が改善を期待したい。

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