金堂壁画の模写と復元
古い文化財の保存とその公開は、関係者にとって悩ましい問題だろう。このことについて、法隆寺金堂外陣の壁画を実際に見た経験を通して、感想を記してみたい。
凡そ1,400年前に描かれた壁画は、明治になって徐々に貴重な文化財であることが認識されるようになり、保存が検討され始めた。既に劣化が進んでいた。この時代に先ず行われたのは模写だった。
数人の画家が試みている中で、特筆すべきは鈴木空如による模写だ。明治四十年から昭和六年にかけて、まるで修行僧のように黙々と金堂内で模写に当たった。その作品(秋田県大仙市所蔵)が三年前に東京芸術大学美術館で展示された。暗めの色調で細部が模写されている。描かれた仏像に深い精神性が感じられた。とはいえ、これは一画家の手になる模写だ。
昭和二十四年に壁画が焼損した。その後昭和四十二年になって、著名な日本画家四名の各班による模写が開始された。その際先人の模写と共に、昭和十年に便利堂が原寸大で撮影し、コロタイプ印刷に残した写真が役に立った。模写は一年後に完成し、元の壁に収められた。金堂を訪ねた際に金網越しに壁画を覗いてみた。一部は見えるものの、暗くて殆ど分からない。
最近東京芸術大学のグループが新しいデジタル技術を駆使し、「クローン文化財」と称する復元を行っている。これはすべての資料をコンピュータで処理し、3D印刷機で和紙に印刷することが基本となる。昨秋に焼損前の壁画の復元図が大学美術館で展示された。有名な勢至菩薩が描かれている六号壁画「阿弥陀浄土図」を目の前にし、その見事さに感動した。
同グループは様々な遺跡の復元も手掛けている。現状ばかりでなく、当初の状態の復元も可能だという。復元は原図のクローンではなく、あくまでコピーであり、色合わせや画素数等の技術、それに出来た作品の保存性等の問題を抱えている。それでもこの復元法が、古い文化財の保存と公開に貢献していくことは間違いないだろう。