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「800字文学館」

白川義員の“天地創造”

塚田 實

 NHKドキュメンタリー「白川義員 “天地創造”を撮る」を見た。白川義員は自然を撮影テーマとする写真家で、「世界百名山」などの作品がある。83歳になる白川は人生最後の挑戦として、“天地創造”をテーマとした写真に取り組んでいる。先ず北米大陸から始め、コロラド高原のキャニオンランズ国立公園やバーミリオン・クリフス・ナショナル・モニュメントが紹介されていた。

 番組を見て、同じコロラド高原の一角を占めるグランドキャニオン国立公園を懐かしく思い出した。
 アメリカ留学時代の夏休みに約1ヶ月ドライブ旅行をした。車は中古のポンコツでエアコンは無かった。アメリカ西海岸から猛暑のデスヴァレーを横切り、南東方向のグランドキャニオンに行こうとしたが、暑さにへきえきとした家内は、「南には絶対行かない」と強硬に反対し、やむなくグランドキャニオンは諦めた。
 それから7年後、思いを残したグランドキャニオンを訪れることができた。ラスヴェガスからサウスリムまで小型機で飛んだ。大地がぱっくりと割れた景観には息を呑んだ。サウスリムから対岸のノースリムまでは直線距離で16キロあり、間にコロラド川の刻んだ深い峡谷が広がる。ヘリコプターで谷底のコロラド川まで降りた。サウスリムの標高は約2,200メートル、谷底は高度差1,300メートルあるので、約8度の温度差がある。無機質の断崖絶壁がそそり立つ中で、ここだけは緑に覆われサボテンや様々な花が咲いている。見上げると巨大な谷に傾きかけた陽が複雑な陰影を描いていた。

 白川が今回挑戦したところは、グランドキャニオンよりさらに上流で原始地球の姿を残した“天地創造”の名にふさわしいところだった。
 傘寿も過ぎた写真家は過去の撮影活動で片肺を失いながらも、新しいプロジェクトに次々と挑戦し続けている。あくなき創作意欲にはつくづく感心した。“天地創造”プロジェクトの今後の展開が楽しみだ。

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