作品の閲覧

「800字文学館」

舟を編む―広辞苑の話

大月 和彦

 広辞苑第7版が先ごろ発売された。10年ぶりの改訂で、新しく1万項目が追加され、収載項目は25万になったという。

 昨年秋からメディアを通じて派手なPRが行われた。朝日新聞は、「広辞苑第7版が映す社会―国民的辞典」と紹介し、辞典編集者とのインタビュー記事を載せるなど大きく報じた。一出版社の刊行物としては異例の扱いがされ、関心が高まった。

 言葉は社会や生活を反映して変わる。国語辞典であり百科辞典でもある広辞苑は、この10年間に生れた言葉と科学技術の進歩に伴って生じた事象を精選して収載した。

 新しい言葉が世の中に定着したかどうか、定着が見込まれるかどうかを選択基準とした。編集部のスタッフは読者の意見や他社の辞典を参考にするとともに、新聞雑誌、街の看板や電車の吊広告、ブログやツイッターなどに絶えず注意し、気がついた言葉をカードに書きとめ、その中から選りすぐる。

「半端ない」、「ちゃらい」など日本語の乱れとして顔をしかめるような若者言葉。「ビットコイン」、「スマホ」、「ニホニウム」などは社会の変化や科学の進歩を反映したもの。 「シビアアクシデント」、「廃炉」、「東日本大震災」は当然追加されている。

 3年前に本屋大賞を受賞した『舟を編む』(三浦しをん)は、国語辞典に取り組む編集者の息の長い作業を描いている。
「舟を編む」―辞書は言葉の海を渡る舟である。人は辞書という舟に乗り、暗い海面に浮かびあがる小さな光を集める。最もふさわしい言葉で、正確に、思いを誰かに届けるために辞書という舟に乗る。辞書作りはその舟を作ること、と著者の辞書への思いがこめられている。
 三浦氏の小冊子「広辞苑をつくるひと」では、言葉の選択と解釈、簡潔な表現、イラスト、文字の字体・デザイン、用紙―指に吸いつくようなしっとりした質感をもつ―の開発、製本・製函など辞書作りの舞台裏を紹介している。

 普通版でも2・5㎏、片手では持てないし、小さい活字が詰まったページなど老人には使いにくい。が、「国民的辞典」に敬意を表して、本箱を飾るために購入した。

作品の一覧へ戻る

作品の閲覧