鉄と神話
先日、NHKの日曜番組「小さな旅」で奥出雲(島根県)が紹介されていた。
伝統の「たたら製鉄」で「玉鋼」(たまはがね)を作り、刀剣などの材料にする物語である。映像で見る「たたら製鉄」は新鮮だった。
中国地方に多い砂鉄を、大量の木炭で三日三晩千数百度に熱し、溶けた生鉄(ずく)を採取して鉄製品に仕上げていく。炎の色を見ながら砂鉄と木炭を適宜投入していくという。人里離れた山中、砂鉄と炭で真っ黒になり、高温の火にあぶられ、危険極まりない作業に従事した集団が古来この地にいた――。
ところでこの製鉄集団は神話にも登場する。
出雲のヤマタノオロチ伝説――スサノオが、オロチを酒で酔わせて退治する。切り裂いていくが、尾を切った時自分の剣が欠け、一本の剣が出てきた。のちにこれが三種の神器の一つとなった。スサノオの神剣よりオロチの剣が剛かったというわけだ。
古代、鉄の製錬法は二種類あった。先ず、砂鉄を原料に前述の通りに作るもの。
中国・江南方面から伝わった。もう一つは鉄鉱石を原料にこれを溶かして作るもの。中国北方から朝鮮半島経由で伝わった。砂鉄の方は一般に品質が劣り生産性も悪い。だが山陰の砂鉄には、悪さをするチタンの含有が極端に少ないものがあり、これを使うと逆に玉鋼のような良質のものができるそうだ。
これをオロチ伝説に組み合わせるとどうなるか。
スサノオは新羅から来た一族とされている。良質の鉄鉱石系の鉄を持ち込んだ。それがオロチの剣で刃こぼれしたのだから、出雲の砂鉄製鉄が優秀だったことになる。では砂鉄製鉄を持ち込んだ恐ろしいオロチは誰か。
江南から来たのだから、理屈では稲作を伝えた江南の中国人となる。さしずめオオクニヌシ族だ。オオクニが先にいて、その先祖のスサノオが後にきたことになる。出雲神話とは真逆である。
しかし神話は勝者が作るもの、敗者はいつの世もオロチや赤鬼(桃太郎伝説)などにされてしまう。詮索はすまい。