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「800字文学館」

変わる?湯河原温泉

川口 ひろ子

 寒の頃から始まった膝の痛みを和らげる為に、友人M子と関節痛に良いといわれる湯河原温泉に出かけた。子供の頃両親に連れられてよく通った懐かしい温泉場だ。

 夕方まで何処へ行こうかと駅横の観光案内所へ。面長長身の青年スタッフのお奨めは幕山公園の湯河原梅林だ。「山登りはだめよ、膝が痛いから」「麓から眺めるだけで素晴らしい梅見が出来ますよ。今満開ですから是非!」などのやり取りがありここに決めた。10分ほどバスに乗り到着、お休み所に座って梅見となる。お椀を伏せたようななだらかな丘が続く幕山に、柔らかな早春の日差しを浴びて約4000本という紅梅、白梅が咲き誇っていた。

 予約の宿は奥湯河原の割烹旅館で先ずはお風呂へ。無色透明の滑らかなお湯が優しく体を包む。
 夕食は繊細な会席料理だ。着物姿の若い仲居さんがタイミングよく運んでくれた。地元駿河湾産のほうぼう、金目鯛などと共に、石狩の鰊や苫小牧の北寄貝など北海道産の料理が供される。ご飯は「ゆめぴりか」、デザートはジャガイモ味のアイスクリーム、全く意外な取り合わせだ。なぜ湯河原でジャガイモかと仲居さんに尋ねると、数年前にオーナーが北海道の会社に替わった為だという。

 明治時代から文人墨客に愛された湯の街はバブルの喧騒を経て寂れた街に、そして今また大きく変わろうとしているようだ。
 私たちの言いたい放題を真正面から受け止めて、パンフレットを振りかざして熱心に梅見を勧めてくれた観光案内所のお兄さん、バスの乗り換え方法を何度も丁寧に教えてくれた運転手さん、活舌滑らかに料理の説明をしてくれたオーナーチェンジの宿の仲居さん。皆、何とかここを再生させようと必死に私たちに訴えかけているように思える。

 不機嫌な私の膝関節もいずれ快方に向かうだろう。思い出多い温泉場は現場の心優しい若者たちの熱意によって、時代に合った感性豊かなリゾート地として再生してゆくのではないかと思うが、甘いだろうか……。

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