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「800字文学館」

韓国の花見

大津 隆文

 昨年の四月上旬に「韓国桜旅情」というツアーに参加した。韓国にも桜の名所があちこちにあるが、中でもプサン近くの鎮海(チネ)が素晴らしいとかねてより聞き及び、是非一度見たいと思っていた。鎮海は昔からの軍港で日本が統治した時代の影響が残っているのかもしれない。案内書によれば、鎮海の桜の本数は三四万本、同時に訪れた慶州は二〇万本とのことだ。
 実際に訪れてみると本当に桜の木が多く、桜並木の続く道路も少なくなかった。また、鎮海の鉄道線路沿いの桜は映画にもたびたび登場している名所とのことだ。桜のシーズンに合わせて開かれていた軍港祭には大変な人が出ていた。これほどまでに桜が韓国の人達に愛されているのは予想外だった。
 桜並木の下に食べ物、お土産等の露店が軒を接しているところは日本と全く同じである。家族連れ、若いカップル等が幸せそうに桜を背景に写真を撮ったりしている。韓国は寒いだけに春になると花が一斉に開花するようだ。レンギョウ、木蓮、菜の花も桜と同時に咲き乱れ本当に美しい。

 韓国の国花はムクゲ(木槿)で、日本の桜が一時に咲いて一時に散るのとは違って、ムクゲは一夜花ではあるが毎日新しい花が咲き続ける。漢字では無窮花(ムグンファ)と表され、困難を粘り強く乗り越えていく韓国人の国民性にふさわしい花との見方を聞いたことがある。
 ガイド(韓国人)の話によれば、八〇年代頃までは桜は日本帝国主義の象徴であり切り倒すべしとの運動もあったが、私達が守りましたとのことであった。もちろん花に罪はないし、親しくなった韓国人は、正直に言えば桜の方が美しいと思っている人が多いと言っていた。また、興味深いのは、韓国では桜の原産地は済州島でそれが日本へ伝わったとの説があることだ。自国が本家であれば胸を張って鑑賞できるわけである。
 政治的、歴史的には両国間には難しい問題があるが、日本人も韓国人も桜を愛するのは共通で、桜前線が日本と韓国を繋いでいるように感じたことであった。

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