枡野俊明師との出会い
駒澤大学での日曜坐禅と講義の後、図書館に立ち寄った。新着本として枡野俊明著「人生を整える 禅的考え方」が並べてあった。懐かしい名前だった。
師との出会いはまさに偶然だった。2泊3日の予定で北京に出張したとき、機内にお坊さんが乗っていたことは記憶にあった。仕事を終えて帰りの飛行機に乗ると、隣の席に座っていた。北京から成田までは約3時間半の距離である。食事をしながら、会話を楽しんだ。お坊さんは「曹洞宗徳雄山建功寺住職枡野俊明」と名乗った。師は北京で開催されていた庭園に関する国際会議に出席した帰りだと言う。師は庭園デザイナーでもあった。「禅の心を庭のデザインに表現する石立僧(いしだてそう)だ」と笑っていた。師は今までデザインした様々な庭を語ったが、簡単に見られるのは渋谷のセルリアンタワー東急ホテルの日本庭園「閑坐庭」だと教えられた。
帰国後「閑坐庭」を見に行った。石が豪快に波打つ雄大な庭だった。師はその後も禅に関する本や「禅の庭」という写真集を次々と出版された。
数年後会社の季刊誌に掲載する『対論』の相手を師にお願いし、鶴見の建功寺を尋ねた。師はそのとき59歳だったが、肌はつやつやとして、若々しかった。対談は、禅の話から庭園づくりの話まで広がった。アップルのスティーブ・ジョブズの話が印象的だった。禅思想に傾倒していたジョブズは毎朝洗面のときに鏡を見て「もし私の命が明日までだったら、今やっていることはこれで良いのか」と自らに問いかけていたという。これは「今に生きる」、「この瞬間に生きる」という禅の生き方を実践したものだと紹介してくれた。
庭の話には一層力が入った。禅の庭は天龍寺の夢窓疎石から始まったという。しかし今や禅僧で庭園デザインをするのは師だけだそうだ。
約2時間の対談だったが、師は正座を崩さず、柔らかな笑顔で「禅」を優しく説いてくださった。禅が身近に感じられたひとときだった。