作品の閲覧

「800字文学館」

船のトン数

野瀬 隆平

 テレビを見ていて、「あれ、そうかな」と思わず口にしていた。
 加山雄三の大型クルーザーが焼けたというニュースが流れている時である。「光進丸」というこの船を「104トンの重さ」と説明していたが、このトンは「重さ」ではなく「容積」を表わす単位ではないのかとの疑問を抱いたからだ。

 船の大きさを、長さとか幅などの寸法でいえば誰にでも直ぐにわかる。しかし、寸法ではなくトンで表示する場合に混乱が生じやすい。同じトンでも、船の用途・種類によって、意味するところが全く異なるからである。
 乗客や一般の貨物を運ぶ船の場合には、どのくらいの広さがあるかが問題なので、密閉されている空間の容積、100立方フィート(メートル法に換算すればおよそ2.83立方メートル)を1トンと数える。更に、詳しくいえば、船全体の容積を総トン数と称し、ここから船の航行に必要な部分を除いて、純粋に商売に使える部分だけの容積を純トン数という。
 次に、原油やバルクカーゴを運ぶ船の場合は、積める貨物の重さで船の大きさを表す。これを載貨重量トンという。例えば、20万のトンのタンカーといえば20万トンの重さの原油が運べることを意味する。
 最後に、船自体の重さで表示するのが軍艦で、これを排水トンと称する。
 ちなみに、容積なのに何故「トン」というのか。昔、イギリスでブドウ酒を船で運ぶときに、いくつの樽が積まれているか、棒でたたきながら数えた。その時の音「トン、トン」に由来するものだといわれている。

 さて、「光進丸」というこのクルーザーが104トンだという場合、船自体の重さなのか、それとも容積なのか。客を運ぶ船であるから、およそ300立方メートルのスペースを持つ船と理解したいところだが、新聞やネットでの報道では、「重さ104トン」と説明されていることが多い。
 どちらが正しいのかスッキリしないまま、後日、沈没した「光進丸」が引き揚げられる場面をテレビで眺めていた。

作品の一覧へ戻る

作品の閲覧