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「800字文学館」

おみこし

稲宮 健一

 昨年シネマ歌舞伎で「め組の喧嘩」を見た。実際に平成中村座で上演されたもの。勘三郎の歯切れのいい啖呵が一番の見どころ。勘三郎は亡くなる前に各地で海外公演などを精力的にこなし、歌舞伎の魅力を広めた。もっと長く楽しませて欲しかった。

 この演目は文化二年(一八〇九年)に実際に江戸、芝明神であった火消しと、力士の喧嘩を基にした芝居だ。威勢がよく、いざとなったら、火の中、水の中に突進し町衆を助ける侠気のある火消しが大名のお抱え力士と木戸銭御免をめぐり払わぬ、払えの遺恨が講じ、上へ下への罪のない大喧嘩の劇だ。さらに火消しは町奉行、相撲は神社奉行と別のお役所が後に控えていた、場面では火消し半纏に、きりっとした紺の股引姿の役者と、今でいう縫いぐるみで、太った相撲取りに扮する多数の役者が場面いっぱいに暴れまわる。火消しは軽業よろしく、高い塀を乗り越えたり、力士は火消しの梯子を取り上げぶんまわすなど、活劇を演じた。

 よくおみこし経営と言われ、全員参加だが、誰が主導しているか不明な悪い経営の見本だとされた。しかし、全員参加の雰囲気を醸し出すには良い方法だと思う。昭和五十年代、私の勤務していた工場は戦後の歴史の浅い防衛製品を製造していた。熟練した管理者のいない職場は温かみがなく、殺伐としていた。そのためか、外部の先鋭的な活動者に影響された組合問題が生じていた。

 結局職場の雰囲気を和らげるため、職場に夏祭りが持ち込まれた。部単位でそれぞれ全員が知恵を出して職種の特徴を出した部のお神輿を造り、祭り当日に皆でお神輿を担ぎ全員参加の気持ちが広がり、戦闘的な組合活動が治まり普通の職場になっていった。

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