作品の閲覧

「800字文学館」

公益資本主義

稲宮 健一

 世界の八人の富豪と、貧しい三六億人の資産が同じ、この激しい格差が社会を不安定にしている。その傾向を加速しているのが株主資本主義だとシリコーンバレーの起業家である原丈人が指摘して、それに変わる公益資本主義を提唱している。例として、米国企業のCEOの年棒が戦前から八十年初頭まで、ほぼ百万ドル(一億円)だったのが、リーマンショック頃には千四百万ドルに上がっている一方で、三十代の社員の年収は最近の三十年間で十四%下がっている。

 株主資本主義では会社は株主のもの。従って株主は当然投資に見合う利益配分を追求するが、それが短期の成果に関心が集まり、長期的視野で経営を見ない。その顕著な例として、短い決算期を設定して刹那的な高い配当を狙う。高配当を実現した点だけでCEOを優れた経営者と評価する。また、会社の利益を自社株買に多く回し、例としてIBMは当期利益を上回る113%、即ち利益より13%よけいに払うため、会社全体では従業員の待遇や、研究開発にしわ寄せがくる。

 この傾向に拍車をかけたのが、コンピュータや、AIを駆使し超高速取式(HFI)で短期の利益を求める金融業界は本来の金融の役割である将来の成長への投資に回らない。原の定義によると会社は株主だけのものでなく、株主、経営者、従業員の運命共同体であると主張している。そして、会社に参画する全員が等しく利益が得られるように、長中期的な企業活動が大切と言っている。

 日本には古くは近江商人の「売り手よし、買い手よし、世間よし」の格言があった。会社は公器、全員参画が図られる日本の資本主義こそ「公益資本主義」と呼び、世界に普及して多くの人に等しい幸せが届けばよい。彼の主張の一部は、会社に関わる全員が責任を持つこと、長中期株主の優遇、新技術開発への税金の控除、にわか株主の排除、短期決算の廃止、新技術、新産業への税金の控除、株主優遇と同程度ボーナスを従業員へ支給する等々である。

「公益」資本主義 (英米型資本主義の終焉)、原 丈人、文春新書 1104

作品の一覧へ戻る

作品の閲覧