新野(にいの)の雪祭り
長野県の南端阿南町新野に伝わる「雪祭り」は、正月に行われる田楽または古風な猿楽の神事芸能として知られている。
昨年12月、国学院大学常盤松ホールで折口信夫生誕130年を記念して「新野の雪祭りと折口信夫」が開催された。ホールに設けられた祭壇で新野の伊豆神社宮司が雪祭りの中心的な舞楽、順〈ずん〉の舞と中啓の舞を地元保存会の人たちの笛と太鼓に合わせて奉納した。
同じ日に4時間にわたって飯田市美術博物館が記録した映像「新野の雪祭り」が放映された。交通の便が悪い標高800mの高冷地の山村で、厳寒期の真夜中に繰り広げられるこの壮大な民俗芸能を映像によって垣間見ることができた。
鎌倉時代から伝わるこの祭事は、雪を豊年の吉兆とみて田畑の豊かな稔りを願う行事。1月14日の夕方、集落を出た行列は村はずれの高台にある伊豆神社へ。15日午前一時から境内で、神様の立舞い、社殿に向かって矢を射る行事、子授けの呪法、仮面をつけた農民が田打ちや苗を植える田遊びなど神と人が一体となった絵巻物が夜を徹して繰り広げられる。カラフルな装束を身にまとった人や大勢の見物客で華やかな雰囲気だ。境内のあちこちに松明が焚かれ、勇ましい掛け声が響く勇壮な場面が多い。夜が更けて延々と続く舞いや芸能は単純な動作の繰り返し。笛の旋律は単調で物悲しい。
大正15年(1926)新野を訪れた折口信夫は、この祭りを見て驚き、日本を代表する民俗芸能と高く評価した。「日本の芸能を学ぶものは、一度見る必要のある祭り」と全国に紹介し、これを「雪祭り」と名付けた。雪祭りと奥三河地方に伝わる花まつり(霜月祭)にも関心を持った折口はその後たびたび雪祭り行事採訪のため新野を訪れて、村の人々と終生にわたり親交を深めていた。
新野が位置する南信州と、隣り合う東三河と遠州の「三遠南信」地域には雪まつりのほか花まつり、人形芝居、歌舞伎などの多くの民俗行事や郷土芸能が伝承されている。この地域を日本文化遺産に指定しようとする動きがあるという。