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「800字文学館」

スマホはホントに面白い

首藤 静夫

 B級グルメで人気の中華料理屋が町内にある。
 ゴールデンウィーク中は近場に限ると、妻の不在を幸いに一人で出かけた。6時なのに店内はかなりの客で、カウンター席の十数席は数席しか空いていない。入口近くの角にすわる。浅利と青菜の炒め物を注文すると、浅利が終わったという。開店して間もないのに何という言い草か。仕方ないからビールに適当な料理を頼んでふと左隣をみた。40歳位の女性二人の間に、その浅利の炒め物がある。ちょっと遅かったか。
 ところでこの二人、会話するでなし、食事をするでもない。スマホに熱中している。食べないのなら、こっちに寄こせよ。そのうち箸をつけ始めたが、またスマホ――どっちかにしろよ。
 右側は30代の夫婦らしい男女。こちらは料理を待っていてテーブルは水だけだ。やはり二人ともスマホに余念がない。
 若者が一人現れた。女性のバッグが隣の座席に置かれている。若者、
「すいません、このバッグよろしいですか――」
 彼女はスマホを見たまま、片手だけ伸ばしてバッグを膝に抱えた。連れの男性も無言のまま画面とにらめっこだ。思わずこちらの神経が尖ってくる。
 空いた席に座った若者は威勢よく、
「生ビール下さい、それに餃子も」
 店内の空気が少し明るくなった。彼は隣の私にも、
「いやー、今日は暑かったですね、こんなに日焼けしましたよ」と屈託がない。こちらの顔も思わずなごむ。人間にやっと会えた。
 スマホをやらないからその面白さは分からない、さぞ面白いのだろう。しかし、どこかおかしい。人間関係を無表情に、無反応にやりすごす風潮が広がり過ぎていないか。「ほほえみ」「気遣い」などの言葉は死語になったのだろうか。これではAIが人間に近づくよりも、人間がAIに近づいていると言われても仕方あるまい。
 左側の女性二人は、相変わらず食べたり箸を休めてスマホを見たりで、残った料理は冷めてしまった。
 元気な若者に乾杯して早めに引き上げるとしよう。

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