伏見 水めぐり
京都は桜が散っても観光客で溢れている。ちょっと違う京都を見つけようと伏見に向かった。伏見は旧東海道歩きの延長として京街道を歩いた時以来だ。当時は歩くことが主眼で余り周りを見なかっただけに今回は少しゆったりとした気分で歩いてみた。今の伏見の売りは『水と酒のまち』と『十石舟の旅』のようだ。
この地には桃山丘陵を潜った清らかな水が湧き出てくる。この水を伏水と呼んだことから伏見の地名になったらしい。この水を利用した伏見の清酒は『月桂冠』『黄桜』『神聖』をはじめ二十三の酒蔵・蔵元がある。
酒はさておき名水として、境内から良い香りの水が湧き出し、飲むと病が治るとされる「御香水」のある『御香宮神社』に行った。たいそう立派な表門に迎えられたが、それもそのはず伏見城の大手門を移築したもの。
街をぶらぶら歩くと「会津藩駐屯地跡の碑」を過ぎた所で、ポリタンクを持った人が並んでいる。何だろうと近づくと『白菊水』とある。「観光客です」と厚かましく横入りして一口飲まして頂いた。軟らかい感じで、「これからの夏はこの水を氷にするんどす」と小父さん、嬉しそうだった。
すぐ近くにある古びた建物は『伏見夢百衆』とあり、月桂冠の旧本社を利用した伏見の銘酒が飲める喫茶店だ。これはいいと一杯。その所為かフラフラと朱色の土塀と龍宮門に誘われた寺は、京都では珍しい弁天さんの『長建寺』だった。この寺には中書島遊郭の遊女がお参りに来たようで、今も女性に人気のある貝形の可愛いお守りが売られていた。境内には「閼伽水」が湧いており、遊女ならぬ弁天さんの香りなのかなと思いながら飲ませて頂いた。
疲れたところで、十石舟を見つけ乗船。江戸時代は伏見―大坂間は淀川の水運が中心で三十石船、十石舟が行き通った。さらに高瀬川の開削で洛中と伏見が結ばれ、伏見港は交通・物流の拠点として賑わった。そんな風景を思い浮かべながら川辺の柳や酒蔵を見ながら過ごした。