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「800字文学館」

熱海のジャカランダ

藤原 道夫

 ジャカランダの花を知ったのは、2~3年前に南アフリカの都市を紹介するTV番組に映し出された時。高い街路樹が薄紫色の花に覆われていた。葉が伸びないうちに花が咲くので、日本の桜並木の美しさに匹敵する、という解説がとても興味深かった。行ってみたいと思うものの、南アフリカはあまりにも遠い。取りあえずこの樹木について調べてみた。
 ジャカランダはノウゼンカズラ科の木で、原産はアルゼンチン。そこからアフリカ南部やオセアニア等に拡がった。高さ15m程に育ち、葉は羽様対生、薄紫色の花を房状に付ける。日本では花の色から紫雲木とも紫桜とも、また形からキリモドキとも呼ばれている。実物を見ていないので、桐の花に似ているかと想像した。桐はキリ科に属すが、両者は近縁とされる。
 会津は桐材の産地として知られている。郷里の山村にもあちこちに桐が植えられていた。桐は高級箪笥の材料として用いられると共に、昔は下駄に加工されて日常生活に馴染んでいた。大きな葉が出揃う六月に、一枝に数個の薄紫色の花が咲く。微かながら芳香を放つ。花にも木にもどことなく気品がある。

 昨年夏のこと、四季折々の花の写真を撮り歩いている知人から、熱海で6月にジャカランダの花を見ることができる、と聞き及んだ。梅雨前の晴れた日(今年6月4日)見に出掛けた。「お宮の松」辺りから遊歩道に沿って植えられている。木の形も葉も桐とはまるで違う。葉の茂った低木に青味がかった薄紫色の花が塊になって付いていた。花は桐に似るが香りはない。たまたま出会った観光協会の方の話しでは「6年前に木を植える場所を整備し、今も育て方を検討している。葉が出揃ってから花を付ける木が多い。花の付き方が一定せず、今年は高木に花がない」とか。歩くうちに、葉が出たばかりで花を付けている低木に出会った。このように咲く高木が揃えば、映像で見た様な美しい風景になろう。熱海でそんな景色を楽しめる時が来るだろうか。

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