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「800字文学館」

壊れた!

中村 晃也

 昨年十一月に体調不良で入院して以来、申し合わせたように長年使用してきた種々のハードウエアが次々と機能不全に陥った。カメラのスイッチが壊れ、寝室のTVが使えなくなった。いずれも部品交換よりは新規購入のほうが安いという。
 パソコンもなんとかだましだまし使ってきたが、五月の連休を目前にして完全に壊れてしまった。

 この時代にPCがないと何もできない。800字の原稿、フォト句の月例会の報告、俳句の推敲と投稿などの全ての資料作成が不能。銀行預金の管理や振り込みができない。メールの受発信もストップし、メールしたのに返事がないとの電話でのクレームがかなりあった。連休の間にと予定していた全ての作業ができなくなった。

 PCのサービス会社に電話したが、連休の最中で連絡がつかない。時間つぶしに外出しようにも観光地はどこも混んでいる様子。すべて手遅れである。
 わずかに予定のあったサントリーホールに出かけて、N響定期コンサートで九十二歳のH・ブロムステッド指揮のベートーベンの第七と第八を聴いたり、近代美術館の横山大観展で種々の富士山の絵や四十数メートルの巻き絵を鑑賞したが、大型連休を消化するにはほど遠い。

 そこで家内が友人と回し読みをしている本を横取りして読むことにした。葉室麟の「銀漢の賦」「面影橋」「冬姫」「緋の天空」を読破した。
 どれもストーリーの面白さに加え文中の挿話が興味深く、剣法、茶道、能、宮中の礼式など作家の造詣の深さに感心した。以前読んだカズオイシグロの「日の名残り」よりも数段面白かった。

 とにかく機械で動くものは何時かは故障する。それも突然に。
 なんとか事前の対策はないものかと一人ごちたら、「機械には耐用年数というものがあるんだ。壊れる前に取り換えるのが常識だよ」と息子にたしなめられた。
 それを聞いていた家内が、わが意を得たといわんばかりに言いにくいことをほざいた。「そうよ、夫だって壊れる前に取り換えたかったわ」

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