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「800字文学館」

「万引き家族」を観て

内藤 真理子

 父親と小学校一年位の男の子が、息のあった連係プレーで万引きをする場面から映画は始まった。二人は帰る途中、団地の一階の廊下に締め出され、寒さに震えている幼い女の子を見かけて、家に連れ帰る。
 家は古い日本家屋ですり減った畳の部屋が三部屋、縁側と台所、それにお押し入れと風呂場がある。こまごましたものが所狭しと置いてある家に、祖母、父、母、若い女、それに万引きをしていた男の子と総勢五人が住んでいる。そこに連れ帰った女の子が加わる。みんなが代わる代わる女の子に話しかける。祖母が虐待の痕を見つけメンソレータムを塗り、みんな女の子を家に帰せなくなり、家族の一員にしてしまう。

 最初、映画を観ながらこれが外国人に解るのだろうかと思った。
 何一つ解説がないまま、ひと昔前の日本ならどこにでもあったような、汚い家に貧しいが賑やかな大家族が映し出される。全員が朗らかで思いやりがあり、そこにはごく普通の生活があるのだが……。
 家族は、祖母の年金と、万引きをした品物で生活をしている。父は怪我をして働けなくなり、母はリストラされて無職。それでも心は繋がり、全員で花火の音を聞き、縁側で軒の上に広がる空を見上げ、全員で電車に乗って海に行くような温かい家族だった。祖母が死ぬまでは……。
 祖母が死に、葬式代がないままに縁の下に埋め、年金を不正に受け取るような生活が始まった。
 まず最初に男の子が、今までやっていた万引きは本当は悪い事なのではないのかと気付き始める
 観ているうちに、この映画が、カンヌ国際映画祭のパルムドール受賞は当然だという気になって来た。
 家族全員が他人なのだが、一緒にいる理由を声高に言うのではなく、過不足なく伝えている。何故不幸になったのか、どうしてみんなこんなに優しくて温かいのか。現実を衒いなく映しているだけなのに、社会の善と悪が入り混じり、なるべくして善にも悪にもなったりして……。
 観れば万人に解る映画だった。

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