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「800字文学館」

真梨邑ケイさん

大越 浩平

 妻に、真梨邑ケイさんがテレビに出ていると告げられた。懐かしい名前だ。現役の頃、接待疲れのクールダウンに、高層ホテル最上階にある、ラウンジのバーで飲んでいた。ステージでは新人ジャズ歌手、真梨邑ケイさんが歌っていた。

 会社知名度向上、販促TVのCM構想を練っていた。彼女は使える、ピンときて交渉した。事務所も乗り気で交渉はスムースに進行した。課題は唄う曲だ。その時、ハリー・ジェイムスのゲストトランペットで、ネルソン・リドル、前田憲男のアレンジという豪華キャストのLp作成が進んでいた。そこからオリジナルを選んだ。
 ケイさんにはチャイナドレスを着てもらい、ジャズを品よく、アニタ・オデイ風に歌い、最後にぐるりと回転して太ももまでチラリと見せてエンド。メロディ付き社名をシャウトする演出を提案した。
 監督も乗り乗りで絵コンテを作り、音合わせと振り付けを練り込んだ演出案を事務所に提示した。すると思いもかけなかった返事がきた。

 ケイさんが演出に難色を示す。足を出すのが嫌だというのだ。馬鹿な阿保な等と説得したが、マネージャーは、ケイはO脚なので、もも出しが出来ないと言う。肉体的欠陥は無理強い出来ない。シナリオは変更した。それでもCMは成功し、ポスターを作り全国の顧客にばらまいた。販促効果はあった。次のプランを考えていたが、私の異動で企画は消えた。

 しばらくして、ケイさんがアダルト路線に転向したとの噂を聞いた。テレビ放映は、ジャズ歌手とアダルト路線で活躍中の日常映像だ。

 ビデオ屋に飛び込むとケイさんのビデオが4、5本あった。店主に聞くとビデオは新作程過激になる傾向があるという。そこで新作を見た。
 足を見せるカットを拒んだあの若きケイさんが、表も裏も全部晒してくれる立派なアダルト中年女優に輝いていた。

 79歳になった私を満足させてくれる新作を見てみたい。アイデアはある、アダルト男優、森林原人さんとケイさんとの絡みだ。

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