作品の閲覧

「800字文学館」

朝顔市にて

藤原 道夫

 久しぶりに入谷朝顔市にやってきた。夏の風物詩となっている朝顔市、初日(7月6日金曜日)朝9時には、雨にもかかわらず多くの人々が来ている。「団十郎」という薄茶色の花に人気があるらしく、あちこちからその名を呼ぶ声が聞こえてくる。これは避け、深い紫色と濃い青色の花を咲かせている鉢を求めた。これをどのように育てようか思案を巡らす。
 これまでにも何度か鉢を求め、花を咲かせる試みをしてきた。持ち帰った行燈造りのままでは花があまり咲かないながら、楽しむことはできた。ある年に二鉢求め、二階のベランダから数本の紐を垂らして蔓を絡ませてみた。蔓は勢いよく伸び、花を付けないうちにベランダに達した。蔓が柵に絡んだ状態で秋口に沢山の花が咲いた。次の年には適当に芽を摘みながら蔓を伸ばしてみたところ、まずまずの咲き具合になった。一つでも二つでも、朝新たに開く花を見ては愛おしんだ。
 貰った種から育てる試みもしてみた。苗を植え替えてある程度まで育つと、何故か萎れて枯れる。二度失敗して種から育てるのは諦めた。市に大量に並べられているに立派な朝顔はどう育てられるのか、ただただ感心するばかり。
 朝顔を沢山咲かせようと思う原点は、子供の時に郷里の家で見た光景にある。6歳の夏だったか、お婆さんに連れられて行った時のこと。家の裏口横にびっしりと朝顔の蔓が伸びていて、沢山の赤や青の花が強い日差しを受けて咲いていた。色鮮やかな花を見て頭がくらくらしたのを覚えている。何時しか自分でも朝顔の花を沢山咲かせてみたい、という願望があの時に脳裡に刻まれたのかも知れない。
 今はベランダで育てるしかない。行燈造りのまま花を咲かせるか、何とか紐を張って蔓を伸ばして咲かせようか、鉢に4株生えているので欲張って両方試みようかと思案する。直ぐにも決めねばなるまい。ふと、沢山の朝顔の花に囲まれて満足している自分の姿を夢想していることに気付き、可笑しくなった。

作品の一覧へ戻る

作品の閲覧