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「800字文学館」

白山神社の紫陽花を観た日

斉藤 征雄

 気象庁が、関東地方の梅雨入りを発表した日だった。
 カミさんが、上の娘から文京区の白山神社の紫陽花を観に行こうと誘われたというのでついていくことにした。

 白山駅で地下鉄を降りるとすぐだった。こじんまりした境内だが、静謐な雰囲気の神社である。948年に加賀一宮白山神社から勧請したとあるから千年の歴史を持つ。千年前のこのあたりにはどんな人々が住んでいたのだろうか、想像もつかない。
 白山という地名はこの神社からきているのは言うまでもないが、隣の小石川も本宮がある加賀国石川郡(現在の石川県)が由来であることを初めて知った。
 祭神は、ククリヒメノミコト、イザナギノミコト、イザナミノミコトの三神。ククリヒメは、黄泉の国で口論したイザナギとイザナミを仲直りさせた神様らしいから、縁結びの神である。
 3000株の紫陽花が植えられているという。文京区主催の「あじさいまつり」は明日からということだったが、今年は開花が早くすでに満開だった。祭りになると富士塚という古墳状の小山にも入れるというが、外からでも十分鑑賞できた。
 小雨が降ってきたが、紫陽花には雨が似合う。

あぢさゐの咲く参道やこぬか雨  まさお

 M新聞を名のるカメラマンが近づいてきた。新聞の写真を撮るから、風景に入ってほしいという。カミさんは逃げたが、私と娘はやや緊張しながら紫陽花を見つめるポーズなどをして応じた。
 神社の裏の小さな公園も紫陽花が埋め尽くしているので一周して神社を後にし、ついでに小石川の後楽園に寄って花菖蒲を鑑賞、ランチをして帰った。
 家に着くと娘から「M新聞のHPに私たちの写真がアップされている」とのメールが入った。「さては夕刊に載るか」と期待したが、夕方「載ったのは違う人の写真だった。残念」との報告が来た。
 買ってきたデパ地下の弁当で夕食を済ませ、歩きすぎて痛くなった腰を風呂でさすりながら、何とはない一日だったが記憶に残る日かもしれないなと思った。

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