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「800字文学館」

新国立劇場(初台)新シーズン開始

川口 ひろ子

 新国立劇場は今年秋新シーズンを迎える。最大の話題はヨーロッパの一流歌劇場を指揮して大成功を収めた大野和士の芸術監督就任だ。開幕公演はモーツァルトの「魔笛」。
「ワー、お帰りなさい! 大野さん」。
 大野さんとの出会いは30年ほど前、「物より心の豊かさを」という理念のもと渋谷にオペラ劇場オーチャードホールが誕生した時だ。記念公演はモーツァルトの「魔笛」で29歳の大野さんがこの指揮者に抜擢された。日中共同制作、時代を古代エジプトから中国の昔に読み替えた「魔笛」は、ヨーロッパのコピーではない新しいアジアのオペラとして高い評価を受けた。
 数年後彼は同じオーチャードで「オペラ・コンチェルタンテ」シリーズを行なった。傑作オペラの数々を、演劇的な要素を省略し音楽面のみを鑑賞しようという企画で、開幕前にその日のオペラの解説がなされた。マエストロというより人懐こいシティボーイという感じの大野さんは、作曲者の主張は何か、それが音符にどのように表現されているか、自分はそれをどう表現したいかをピアノを弾きながら易しく解説してくれた。派手さはないが質の高い舞台は7年間続けられ芸術祭大賞はじめ多くの賞を獲得した。この公演を聴いた海外のプロデューサーにスカウトされ大野さんは世界に羽ばたいて行ったという。

 昨今のオペラ公演は前衛演出家の参加と古楽演奏の台頭とによって大きく変わろうとしている。「システム化された上品な舞台は嫌いだ」という勇ましい掛け声で登場した古楽の新人テオドール・クルレンティスは、昨年のザルツブルク音楽祭で大ブームを巻き起こした。来春2月には来日公演を行い、そのチケットは既に完売とのことだ。

 比較的保守的な公演の多い新国立劇場に、指揮者より格上の芸術監督に抜擢された大野さんは、この様な世界のトレンドをどの様に咀嚼して日本のオペラファンを納得させるに足る舞台を作るのであろうか?
 10月3日初日の「魔笛」が楽しみだ。

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