風炎(フェーン)の猛威
猛暑である。
テレビでアナウンサーや気象予報士が盛んに「命に関わる暑さ、これは災害」と警告している。これが大げさではない証拠には、救急搬送者は延べ10万人に、死者も150人に届こうという勢いであるから恐ろしい。
今夏は太平洋高気圧が南からではなく東から張り出して来た。このため史上最も早い6月28日に関東がいきなり梅雨明けになった。
押し上げられた梅雨前線は梅雨慣れしてない北日本に強い雨を降らせた。7月になるや台風7号が襲来、梅雨の明けてない九州から北日本にかかっていた梅雨前線に大量の水蒸気を供給した。高気圧にがっちりとガードされた関東を除いて、北海道から九州まで未曾有の豪雨となり、大きな災害をもたらした。
そこにやって来たのが台風12号、初め大陸からと太平洋からの二つの高気圧の間を衝いて北上するとみられたが、高気圧の間にあった寒冷低気圧(寒冷渦)に引きずられて関東沖で西に向きを変え、観測史上初の西進する台風となった。それも紀伊半島から中国地方を横断、九州を南下して最後は九州の南海上に至ると言う普通の台風とは完全かつ完璧な逆コースを進んだ。
さて猛暑である。
砂漠で照りつけられて気温が上がるのとは違い、日本で40度というような気温になるのは、フェーン現象が絡んでいる事が多い。ドイツ・アルプス北麓の村の名前にちなむというこの風は、山を越えた風が斜面を駆け下ることで気圧が上がり気温が上がる。高校の物理で習う空気の断熱圧縮のせいで、自転車のポンプの空気タンクが熱くなるのと同じ原理である。フェーン現象は季節や風向きに依らず、とにかく山越えの強い風があると風下の低所の気温は上昇する。そこが盆地や谷間であると行き場のない暑さになる。台風12号は、接近時に引き込む北風で、灼熱の関東の南斜面の麓で高温新記録を作り、去る時には後方で強い南風を吹かせて日本海側すなわち脊梁山脈の北側ほぼ全域に記録的高温をもたらした。