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「800字文学館」

陶芸事始め

塚田 實

 昔から陶芸に興味を持っていた。会社を退職し時間ができたので、世田谷区教育委員会が主催する「陶芸初心者講習会」に申し込んだが、毎回抽選で落ちた。この講習会は人気なのだ。今年の春運よく抽選に当たり、待望の講習を受けた。

 そもそも陶器に興味を持ったのは、昔住んでいた家の近くに静嘉堂文庫美術館があり、「国宝 曜変天目」を見たときからだった。黒の茶碗に茶色の星が点在し、周りに不思議な青が絡み独特の深みを与える。展示されるときは必ず美術館を訪れた。

 大阪に赴任した時、「陶芸家とのお付き合いも心得の一つとして大事だよ」と言われた。紹介されてお会いしたのが京都五条坂から清水寺に続くちゃわん坂の「三代目 澤村陶(とう)哉(さい)」さんだった。お店にお邪魔すると、「これがお店?」という感じで質素だった。声をかけると本人が「はーい!」と元気よく現れた。私より四歳下だが遥かに若々しく見える。陶哉さんは主に京都のデパートや東京のアメリカンクラブで個展を開き、商っているとのことだった。新しい試みにも次々と挑戦する気鋭の陶芸家だ。
 2004年お店を訪問すると、「今度滋賀県日野町に登り窯を作った」という。そして、初窯は貴重な機会なので、私にも何か作れと勧められた。店の裏の工房に案内され、簡単にできるものとして、陶哉さんの指導でお猪口(ちょこ)を2個作り、銘を入れた。
 2か月後お店を訪問すると、お猪口は見事に焼きあがっていた。初めての陶芸作品である。

 講習会で、土をひねっているとすべてのことを忘れて作陶に没頭する。コーヒーカップとソーサー作りに取り組んだ。カップは普通に作ったが、ソーサーは四角のお皿にして、そこに里山の風景と農夫を描いた。これを焼いてみると望外の出来で、先生も誉めてくれ、無事修了証をいただいた。これを持っていると3年以内なら、世田谷区の種々の陶芸教室や同好会に参加できるらしい。
 さて本格的陶芸はいつ始めようか。

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