団十郎が咲いた
入谷朝顔市で求めた一鉢をベランダで育てている。先ずしっかり固定し、次に蔓を絡ませるために上の方の突起物から紐を斜めに垂らした。
濃い赤と深い紫色の花を付けている鉢を求めたのだが、持ち帰って最初に咲いたのが濃いブルーの花。以後毎朝3輪以上の花が咲いている。数日後、驚いたことに団十郎が開いていた。この花は人気があるらしいが、薄茶色がどうも好みに合わない。避けた筈なのに、株の中に入っていたのだ。その後紐に伸びた蔓にも団十郎が咲いた。
団十郎という名は、二代目市川團十郎が歌舞伎十八番の「暫」を演じた時に着ていた海老茶色の裃に由来する由。朝顔の団十郎はもともと茶色だった。今流行っている花はくすんだ薄茶色。業者が開発して名付け、流行らせたらしい。ベランダに咲いた団十郎をよく見ると、白い縁取りがある。これは団十郎もどきと呼ばれる変異株なのかも知れない。
ある朝、四種の花が計15輪咲いた。このことを友人に知らせると、次の句を織り込んだ返事が届いた。
朝顔や一輪深き淵の色 (与謝野蕪村)
土近く朝顔咲くや今朝の秋 (髙浜虚子)
朝顔は秋の季語で、牽牛花とも呼ばれるとある。朝顔を詠んだ句は多いだろう。団十郎の名入りの句もあるかも知れない。私は
朝顔につるべとられてもらい水 (加賀千代女)
くらいしか知らない。この句は当初 朝顔に とされ、後に 朝顔や と変えられたことも知った。正岡子規はこの句について「つるべとられて のところが俗っぽい」と酷評した。しかし、千代女の句に朝顔を慈しむ江戸女性の感性が表現されている、と多くの人が評価しているようだ。
朝顔はベランダで順調に咲いている。だが、一鉢だけでは侘びしい様子だ。次の機会には5鉢ほど並べてみよう。朝顔市へ出掛けた折に、できるだけ鮮やかな色の花を付けている鉢を選び出し、送ってもらおう。団十郎も当然入って来る。いろいろな色の花に交じって咲けば、この花にも親しみを覚えるようになるだろう。