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「800字文学館」

アイタタタ‼

三 春

 築35年目を迎える我家、さすがにあちらこちらが傷んでいる。特に水回りは待ったなしポイントだから、これまでも何度か小修理や交換を重ねてきた。
 この夏は以前から気になっていた浴室のコーキング(壁タイルと床タイルの継ぎ目のシーリング)をDIYでやってみた。

 子供の頃からペンキ塗りや物づくりは嫌いじゃない。体験を楽しめて物を残せるうえに懐も痛まないから一石三鳥だ。今回はまずYouTubeでプロの技と手順を学習した。次にマスキングテープ、コーキング剤、カートリッジ・ガン、仕上げ用のヘラなど一連の道具を調達する。
 現場作業は嫌いじゃないが、修理には余計な手間暇がかかる。楽しいのはガンを操作する一時だけで、古いコーキングの切除→カビ取り→タイル磨き→乾燥など、面白くもない地味な準備作業を耐えねばならない。
 夕暮れ時にようやく本番に入る。床に這いつくばってマスキングテープを張りだすと、鳴りを潜めていた腰痛が再発しそうな危うさを感じた。猛暑に蚊もグッタリはとんだ誤算で、瞬く間に5カ所刺されたが、一気に仕上げねば元も子もないからポリポリ掻きむしってもいられない。
 いよいよガンの出番だ。上下2本のテープの間にコーキング剤を素早く均一にガンで押し出していく。軽い緊張と高揚感が暑さと痒みを忘れさせる。
 楽しいガン打ちがあっさり終わったらヘラでならしてマスキングテープをはがす。夜8時過ぎ、我ながら見事な仕上がり、最後に「明朝まで使用禁止」の貼り紙。

 夜更けに帰宅したシャワー好きの息子が「使用禁止」に不満たらたら、しばし睨み合いが続く。この酔っ払いをスポーツジムに追い払ってバスルームを再チェックすると、あらあら、バスタブのカラン辺りで微かな水漏れを発見、どうやら素人には歯が立たなそうだ。

 翌日、業者にカランごと撤去してもらって壁面スッキリ、18800円也、財布が痛い。翌々日、腰が痛む。翌々々日、股関節と太腿に引き攣れるような痛み、あっちもこっちもアイタタタ!

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