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「800字文学館」

草津音楽祭 2018
(第39回草津夏期国際音楽アカデミー&フェスティヴァル)

川口 ひろ子

 草津音楽祭は毎年8月下旬の2週間草津温泉で開催される。
 午前中は世界トップクラスの演奏家による音楽の授業で、生徒は日本各地から参集した若者だ。午後はこの先生方の模範演奏会が開催され、客席には生徒と父兄そして私たち愛好家が集う。

 8月28日の公演を鑑賞した。
 まずは近代フランスの作曲家サンサーンスの「動物の謝肉祭」。
 弦楽器と管楽器に2台のピアノ、奏者10人による室内楽だ。今日大編成のオーケストラに編曲され描写音楽の名曲として度々演奏されるが、この10人編成が作曲当時の形だという。
 ライオンや象、亀、郭公などが次々と現れてそれぞれの容姿や鳴き声を大げさにアピールする。甲高い小鳥のおしゃべりを再現するのはフルートだ。フィナーレの「白鳥」は、この鳥の姿をチェロが音で描写して真に優雅、単独で演奏されることの多い名曲だ。

 続いて本邦初演、西村朗のピアノ連弾の為の組曲「乳海撹拌」が、アメリカ人の男女ピアニストによって演奏された。
 ヒンズー教の神話から題材をとった天地創造を語るピアノ曲。混沌から秩序へ、この世がどうして出来上がったかを描いているという。前衛独特の不愉快な不協和音は現れず、私はフリージャズの山下洋輔に似ている曲だと思った。パンフレットにある「乳海撹拌神話」の解説は難解で全く理解できなかったが、2人の演奏は納得できるものであった。まさに時代の空気を感じさせる音楽、気分良く聴き終えた。

 最後はドイツの作曲家ヴィットの室内楽。ベートーベンと同時代に活躍というが、印象に残る旋律はなく退屈した。

 今回は苦手意識が強い前衛作品やフランス音楽を聴くことになったが、これがすんなり納まったのは意外であった。先生方のエネルギッシュな演奏と貪欲に吸収しようとする生徒たちの熱気に煽られたのかもしれない。

 今回が平成最後の草津音楽祭。来年からは過度のモーツァルトへの拘りを捨てて、少し柔軟な心で聴くことにしようと思った。

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