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「800字文学館」

ダブルスタンダード

安藤 晃二

 今月の全米オープンテニスの女子シングルス決勝の表彰式の模様は真に印象的なものであった。故あっての観客のブーイングの嵐の中、優勝した大坂なおみ選手はスピーチで「セレナを応援していた皆さん、こんな終わり方でごめんなさい。しかし皆試合をみてくれて有難う」涙ながら、セレナ・ウイリアムズ選手を気遣った、予測しなかった言葉に満場の拍手が湧く。日本的な優しさを感じさせる。セレナは、観客に向かって、「もうブーイングはやめて、なおみの優勝を祝福しよう」笑顔で大坂をハグしたのである。

 セレナには、この試合で恐らく歴史に残る、男性主審との激しい対立があった。セレナが試合中、コーチのサインで教示を受けたとして、coaching violationを宣告され、セレナの暴言(「このコソ泥め」とまで罵る)と、揚句の果てに、ラケットをコートに叩きつけて壊するという行為故に1 ゲームポイントを失い、罰金まで科せられる。このハプニングが勝敗を決めたとは思わないが、度重なる主審との確執に、表彰式になってもセレナ派のブーイングが続いた。

 大会が終わり、時間が経つにつれて、暴言事件についての評価、解説記事などが報道され興味深い。マッケンロー氏曰く。「俺は、審判を、あの何倍も酷い言葉で罵ったぜ」。女子テニス協会が性差別を声高に批判する問題がここに見えて来る。グランドスラム級の大会では選手は男女を問わず同様な摩擦事件が絶えない。問題は女子の方がより厳しく処罰されると言われ、実質的にダブルスタンダードではとの声があることだ。セレナはこの文脈を骨の髄から知っている。『怒れる黒人女』の神話が生き残る。19世紀アメリカのミンストレルショーでは白人男が黒人女性に扮し、その太った、醜い存在は、男に対して叫ぶしかない、として演じられ、笑いを取る。

 セレナは言い放つ。「私が戦うのは女性の人権と平等の問題なの。自分にはその効果が出ないとしても、次の世代のためになると思うわ」大会後のインタビューである。

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