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「800字文学館」

モンゴルの発展と伝統

稲宮 健一

 新聞の書評に岡田英弘著「世界史の誕生」は従来にない視点で古代の歴史を述べているとあったので読んだ。彼の主張は一般に東洋史、西洋史に分類し、そこを中心に歴史を記述されていが、しかし、彼はそれを統合して世界全貌を見渡し、広大なユーラシア大陸を中心に東洋、西洋を見た。そこに遊牧民の世界がある。

 遊牧民は普段決して大集団で住んでいない。それは牧草が薄く広く生えているので、食料自給に合わせて小さな集団で広く点在して生活している。彼らは子供の頃から馬に乗り、弓矢を使って狩猟し、勇敢な騎兵に通じる生活している。家畜の肉や乳が主食で、毛皮で衣服や小屋を作り生活している。しかし、それだけでは生活の必需品を満たせない。
 麦や、米、衣服などを耕作の民から手に入れるため、その時は軍団をなし、南の農耕民との間で掠奪などの争いが発生する。欲しいものを馬と弓矢で奪い取ることにためらいはない。農作業を主として組織された南の農耕民は武力ではかなわない。あたかも「七人の侍」のごとし。

 秦の統一国家と匈奴の間で激しい交流が続いた。中原から押し出された匈奴は東ヨーロッパにも達した。やがて、武力と騎馬によるすばやい移動を手段に十三世紀にチンギスハンの出現で、モンゴルによる世界国家が初めて誕生した。今でもその名残はユーラシア大陸のここかしこに残っている。著書はユーラシアの草原を中心に世界史を書かれている。

 人類の起源はアフリカで、そこから世界中に拡散したと聞いている。狩猟、採取をしながら転々と移動したのだろう。中緯度地帯に住んだ部族は農耕を見出し定着して、集団生活を営み現代文明の基礎を築いた。もっと北にたどり着いた部族は広大な牧草地を見つけ、遊牧民として家畜と共に生活する文化を持った。現代での砂漠の民は、家畜の代わりに石油、弓矢の代わりにカラシニコフの集団がいる。耕作は殺伐さを抑制する。自ら緑を育て、総てに優しい生活をしてもらいたいものだ。

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