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「800字文学館」

ユーラシア大陸

稲宮 健一

 ズ・ブレジンスキーは「地政学で世界をよむ」でユーラシア大陸を征するものは世界を征すと述べている。彼の著書は第二次世界大戦後の冷戦、ソ連の崩壊の時代のユーラシア大陸を取り巻く大国のパワーポリティクスを論じている。この時代の覇権を競うプレーヤからはこの大陸に影響を与えたかつての多くの民族の興亡を読み取れない。
 梅棹忠雄は「文明の生態史観」でユーラシア大陸を中心に世界の地域を第一地帯と第二地帯に大きく区分してその文化の差を記述している。前者は東端の日本、西端の西欧で両者とも近世に至る前に封建時代があり、以降秩序立った進化を歩み近代化を達した。後者の第二地帯は中央部の東西に亘る広大な乾燥地帯である砂漠とオアシスか、スッテプ地帯が広がる。そして、乾燥地帯は悪魔の巣だと梅棹は極言している。乾燥地帯に現れる人間集団はどうしてあれほどの破壊力を示すのだろうと疑問を投げかけている。

 岡田英弘は「世界史の誕生」でユーラシア大陸を駆け巡った遊牧民の活動を漢の時代のから記述している。牧草地は薄く広く拡がっているので、遊牧民は普段都市住民のように固まって住んでいない。しかし、越冬、あるいは農耕民から食料を掠奪する時は、力のあるボス、部族長のもとに統率され行動する。騎馬隊は狩猟と同じ要領で耕作民を基にした歩兵に襲いかかる。彼らは農耕を軽視し、狩りと同様に作物を力で奪い取ることに違和感を持たない。また、ボスはより多くの掠奪物を仲間内に配分することでボスの地位が保たれる。このような遊牧民の活動が匈奴からチンギスハンの時代まで書かれている。

 梅棹がカラコルム探検隊でこの地帯に旅をしたのが一九五五年で、岡田が書いているのは室町から戦国時代当たりまでの様子だ。しかし、戦後しばらくしてかの地を訪れた梅棹は岡田が書いている遊牧民の名残を感じ取ったことはこの地域が過去からのつながりを色濃く残しているし、現代でも同じ流れはある。

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