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「800字文学館」

本末転倒

内藤 真理子

 読もう会で、『武士道』(新渡戸稲造著)が取り上げられた。
 読み進むと〈武士には忠義が最も重要視された。君主あるいは目上の者に対する服従と忠誠こそ武士道的な特色を示す〉とあった。
 これを読んで、国会で未だにくすぶっているモリカケ問題での役人の答弁を思い出した。大抵のことは記憶になく、書付、資料、文書はさっさと廃棄する。時を置いて捨てた筈の資料が出現するのだが、首相に都合の悪い決定打は決して出て来ない。役人は首相を守るために武士道の如く忠誠を尽しているのだろうか。

 芥川龍之介に『忠義』という小説がある。
 七千石の当主が神経衰弱に罹った。発狂するかもしれない。家老は本家筋から来ている者ではあったが、お家が大事に至らないようにと心を砕き、当主を戒めるも遠ざけられる。家を思う家老は、養子を迎え、当主を座敷牢に幽閉して隠居させてしまおうと企てるが発覚。縛り首になりそうになり、主人ではない人の為にこれ以上忠義を尽す事ないと家を出る。
 次に家老になったのは、当主の幼い頃乳人を勤めていた者だった。本家筋から、元の家老は如何したのかと聞かれ、病気が発覚して当主の登城は罷りならぬことになった。もし破ったら責めは家老にあると。
 新しい家老も、やはり養子を迎えなければ立ち行かないことを悟る。だが当主は、いずれ養子は迎えるが、後一度だけでも登城したいと家老に懇願する。本家は、罷りならぬと言っている。
 ここで乳人だった家老は「家」の為に当主をないがしろにすることは出来ないと思う。とは言っても「主」の意のままにすると「家」が亡びるだけではなく「主」自身にも凶事が……。
 結局家老は「主」に忠義を尽くして登城させ、そこで当主は刃傷沙汰を起こし、お家はお取り潰し、主従共に命を落とすことになった。

 さて、現在のお役人、答弁だけを見ていると
「私がどんなにつらい思いをしようともあなたをお守りします」と忠義を尽くしているように見えるのだが……、さて……。

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