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「800字文学館」

「沈殿する」お金

野瀬 隆平

 消費税の税率を、来年予定通り上げると首相が発表した。過去の苦い経験から、経済への悪い影響を少しでも抑えようと、色々な対応策を講じようとしているが、分かりにくく煩雑なものが多い。国民が納得できる適当な理由さえ見つかれば、上げずに済ませたいのが本音だろう。
 財政の健全化と増大する社会保障費を賄うためには、どうしても増税が必要だとしても、何故それを消費税に求めるのか、基本的な論議がなされていない。

 お金持ち貧乏人の区別なく、すべての国民から消費した金額に応じて一律に税金を徴収する消費税。2%のアップは、お金持ちには大した額ではないが、所得の低い人にとっては相対的に大きな負担となる。
 こうして国民全体から一律に吸い上げたお金を、借金の返済に充てるとはどういうことか。国債を持っている人にお金を払って買い戻すことだ。極論すれば、貧乏人から集めたお金を、お金持ちに流すことを意味する。
 さて、その金はどこに行くのか。銀行の口座にそのまま残るものもあろうし、株式の投資に向かうものもあるだろう。いずれにせよ、消費に向かう可能性の低いところへ流れ込んだお金は、水底に沈んだままの砂金のごとく澱んで、「沈殿貨幣」となる。その結果、すぐにでも使いたい人のところには回らず、個人消費は低迷したままで、デフレも解消されない。ただ格差が拡大するだけである。
 本来ならば、底に溜まったお金を吸い上げて循環させれば良いのだが、それが難しいのであれば、政府紙幣を発行して、例えばベーシック・インカムとして国民にあまねく配ってはどうだろうか。
 ハイパー・インフレになるとの反論が聞こえてきそうだが、沈殿しているお金が大量にある限りその心配はない。

 ノーベル賞を受賞した人の言葉が思い浮かぶ。
「世の中のことは嘘が多い。教科書が全て正しかったら、科学の進歩はない。基本は人が言っていること、教科書に書いてあることすべて信じない。なぜかと疑って行くことが重要」

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