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「800字文学館」

イグ・ノーベル賞の世界展

稲宮 健一

 イグ・ノーベル賞展のチラシを見た。噂で聞いていたので、早速会場の東京ドームシティーに足を運んだ。入場すると、この賞の謂われを簡単に説明するパネルから始まり、個々の受賞内容のパネル展示、さらに会場の真ん中に動画が写る大型のスクリーンで入賞式の様子が実感できる。
 入賞したアイディアはさておき、イグ・ノーベル賞という企画の発想に興味を持った。実際の会場は格式の高いハーバード大学のサンダース・シアターで催される。そこに本当のノーベル賞受賞の物理学者がおどけた姿で現れ、総ての挙動がユーモアたっぷりのしぐさと、ハチャメチャな様式で受賞式が取り仕切られる。

 近代科学の始まりは聖書に書かれた宇宙の成り立ちと、実際の天文観測の間の矛盾を明らかにしたガリレオ等の西欧の科学者が出発点になった。二〇世紀になり、西欧の戦火に追われ、多くの科学者が米国に移ったので、欧州の伝統を引き継いだ米国が今や科学の中心になった。イグ・ノーベル賞はその自信と余裕の表れと受け止めた。もちろん、第一線の科学をリードするノーベル賞も大切だが、西側が確立した自然現象や人の生理現象の観測に基づき、さらに日常の生活の中に奇想天外の発想に加えて、ユーモアを伴った創意工夫を称える活動に賛同する社会は立派だ。

 受賞の内容を説明した各パネル前で、驚いたり、にやっと笑ったり、珍しい発想に感心させられた。日本の受賞者が多いのも興味深い。一つこんな例があった。不倫検出スプレー。情事が終わっても、しばらくの間体液がわずかながら漏れているので下着に付着する。帰宅後その微量な液体を検出できるスプレーを開発した。因みに科学捜査の専門家が発想した。胎児に音楽を聞かせると反応するのが超音波画像で観測できる。それならと、産道に小さなスピーカを入れて音楽を聞かせると、胎児の反応が著しくなることを発見。たまごっち、カラオケも受賞した。不倫検出スプレーの発明は日本人です。

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