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「800字文学館」

秋祭り、薪能、阿波踊りで日本文化を満喫

斉藤 征雄

 九月二三日秋晴れの日曜日、散歩がてら近くにある代々木八幡宮の例大祭に出かけた。鎮守の森は屋台で埋まり山手通りにまではみ出している。参道の人ごみの中を歩くと、左右の店はどれもこれも懐かしい寅さんの世界だ。
 拝殿には三十人ほどの人の列があったが後ろに並んでお参りを済ませ、女坂と呼ばれるややなだらかな帰り道を辿る。途中で三個五百円の幸水梨を土産に買った。

 代々木八幡宮は鎌倉時代、宗祐という僧が、もとは二代将軍頼家の家来だったが、伊豆で殺された頼家の菩提を弔って創建したと伝えられる。
 氏子は渋谷区の代々木、初台、富ヶ谷、上原、西原などを中心とする地域の住民で、八幡宮は創建以来人びとから尊崇されてきたという。
 私が住む初台では、この日の例大祭に合わせて毎年阿波踊りが催される。今年は49回というから五十年近く続いている。東京での阿波踊りは高円寺などが有名らしいが、初台のものもこじんまりながら結構見ごたえのある踊りが展開される。二日間にわたり踊るが、今日は二日目。

 ところで代々木八幡の例大祭とは関係ないが、たまたま今日の夜都庁前の広場で薪能が催される。無料で一流プロの能と狂言が観賞できる滅多にない催事なので、前から行くことに決めていた。まだ時間があるので、一度家に帰って早めに夕食を済ませ再度出かけることにしよう。
 ……夕暮れの都庁前広場。空には鰯雲がゆっくり流れ、秋風がさわやかだ。すでに三千人の大観衆が集まっていて立見席しか空いていなかった。
 待つこと一時間。日が落ち夜の帳がおりてようやく開演となった。能二番、狂言一番の演目だが、立ち疲れて腰が痛くなり能一番だけ観て途中退席した。
 初台に戻ると、阿波踊りが佳境に入っていた。踊る阿呆と見る阿呆で一万人を超えるという。缶ビール片手にその中に溶け込む。太鼓と囃子の音が心地よく腹に響いた。

 秋祭り、薪能、阿波踊りをはしごして、日本文化を満喫した秋の一日だった。

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