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「800字文学館」

二次災害と第六感

大森 海太

 現役時代、最後の数年は物流子会社を受け持つこととなった。親会社や関係会社その他の荷主の構内に拠点をおいて、化学品を中心に陸運、海運の輸送や倉庫業務を受け持つ会社で、当然ながら現場での実務作業が多い。そのため主な場所では定期的に防災訓練を実施し、地元の警察や消防署の幹部を招いて、公道での車両事故や化学品の漏洩の想定で、真に迫った模擬訓練を行う。終わると数十人の参加者を前に来賓の挨拶のあと、最後のシメと講評が私の役割である。もともと事務系で営業や業界関係の仕事が主であった私に、防災訓練の講評など出来るわけがないが、そうも言っておられないので、もっともらしく左右に敬礼したあと、次のようなことを話してお茶を濁すことにしていた。

 物流の現場は製造会社と違って一般公道や海の上にあり、どんなに注意していてもほかからのモライ事故がありえますので、日ごろから「事故はあるもの」と考えていなければなりません。一般的に大事故というものは往々にして初期対応の拙さによる二次災害が多いと言われています。反対になにかあっても慌てずに正しく対処すれば、被害は最小限にとどめられるもので、本日はそのための訓練であります。

 この機会にもうひとつ申し上げたいのは、第六感についてであります。物流の世界でもコンピュータなどによる自動制御が進んでいますが、それでも機械は百パーセント信頼できるとは限りません。化学工場での漏れを、ガス検知器よりまえに作業員の鼻が感知して事故を防いだという話を聞いたこともあります。人間には見る、聞く、嗅ぐ、味わう、触るの五感が備わっておりますが、さらに五感を研ぎ澄ましていると、いわゆる第六感が働いてくるのではないかと思います。現場は絶えず危険が隣り合わせだということを自覚していただき、周囲に対して目くばり気くばりを怠らずにいれば、トラブルの気配を第六感で察知することもありうるのではないでしょうか。

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