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「800字文学館」

キャッシュレスの時代

野瀬 隆平

 上映中に喉を潤す飲み物を買おうと売店に向かった。
 カウンターにはいくつかの受付口がある。一か所だけに長い行列ができているが、他の所は人が並んでいない。よく見ると、行列のできている所は「現金払いの方」となっており、他は現金以外で決済する窓口であることが分かった。まだ現金で支払う方がよいと思う人が多いようだ。売る方は電子決済の方が都合がよいから、その窓口を多くしているのだろう。新しくできたミッドタウン日比谷のシネコンでのことである。
 そこで、今朝、家を出てから支払いをどうしてきたか、改めて振り返ってみた。最寄りの私鉄の駅からJRに乗り継いで都心に出るまでの交通費。これは当然すべてスイカだ。途中コンビニでペットボトル入りの水を買った。これもスイカ。外食チェーン店で軽くすませた昼食の代金もスイカで支払う。映画の入場券も自宅のパソコンからクレジットカード決済で購入済みである。

 かように、デジタル決済が進んでいるが、それでも世界的に見ると日本は遅れているという。韓国や中国では、取引のおよそ90%と大変進んでいる。後押しした国の狙いは、売上や所得を確実に把握し脱税させないことにあったのだろう。紙幣発行のコストも削減できるし、匿名性の高い現金が犯罪に利用されることも防げる。

 さて、日本でも政府はデジタル化を進めたいと考えているようだ。消費税率アップによる経済的なマイナスを補うために、デジタル決済をした取引に優遇措置を講ずることも検討されている。更に、企業から従業員への給与も電子マネーで支払うことを国は認める方針である。
 年金以外に収入のない者には、隠すような所得はないのでその点では全く問題ないが、あらゆる取引が記録され、誰かに知らない所で利用されているのは、何とも不気味である。
 なぜ政府はデジタル化を促進したいのか。単に国際的にみて遅れているからというだけでは、本当の理由を述べたことにはならない。

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