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「800字文学館」

規約が基本の次世代産業

稲宮 健一

 二次産業では天然資源を人の都合に合わせ加工し製品を作った。天然資源を扱うにはその物理、化学の特性の深い知識の積み重ねが基礎となって良質の製品が生まれる。先進国は分厚い知識の蓄積があり、途上国が追いつくには大きな格差を負う。

 産業界に人の約束事が基礎となる技術分野を登場させたのは電気通信が草分けだ。電気は直接見えないし触れない。電気信号を扱うとき、送り手と受け手の間で予め信号の形式を定めて情報交換を行う。この約束事である規約をプロトコルと呼んで、精緻な知識に基づき構成されていて、全体をITUが管理している。信号を伝える手段が光ケーブル、インターネット、ワイヤレス端末の携帯通話が現れる前は先進国が定めた通信の秩序が規範であった。

 しかし、今は違う。インターネット回線、携帯のワイヤレス回線が総ての地域に普及し、自由に使えるのが当たり前、関心は使い方に移った。他人を凌ぐ使い方を確立した者が勝者になる。電波を使った通信の形式はITUの管理になるので、国際会議では多くの分野毎のサブグループに分かれて自国の規約を国際標準に認めさせようと、高度な数理的な利用計画を土台にして丁々発止の自己主張が繰り広げられる。一方、インターネット回線にはITUのような強い権限のある国際機関はない。勝手に自分流に使えるので、GAFAが現われたり、即応性と高頻度を武器に短い単語の羅列で政治を動かそうとする使い方も現れる。

 ソフトウエアが主流の現代ではソフトが自由に使えるハードの社会基盤は意識下の存在で、それを土台にして開発され新規な発想が売りになる。今までのように先進国が整備してきた社会基盤だけでは必ずしも優位に立てない。このような状況では、極言すると、大法螺吹きで、声の大きい自己主張が強い奴が優位で、過去の偉大な遺産を地味に人一倍の頑張りで積み上げる美徳では後塵を拝するようになりかねない。スマートな海千山千になれますか。

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