作品の閲覧

「800字文学館」

大徳寺芳春院(ほうしゅんいん)を訪ねて

塚田 實

 川柳会で大阪箕面(みのお)合宿に参加した機会に、大徳寺芳春院秋吉則州住職を訪ねた。
 芳春院は大徳寺の塔頭の一つで、境内の一番奥にある。住職は年一回同好の士を集めて盆栽の会を開き、日立の先輩も毎年自分の盆栽を飾り、この会に参加されていた。その先輩に住職との面談を設定していただき、時間は朝の掃除を終えた後、八時とされた。
 「芳春院」は前田利家の妻まつの院号で、寺はまつが建立、四百年の歴史を誇る塔頭である。
 先輩の心配りで住職の本が送られてきた。『日日(ひび)是(これ)掃除(そうじ)』。サブタイトルには「禅の心が引き寄せる幸せ」とあった。

 当日は、新大阪に泊まっていたので、遅れないよう京都に出かけたが、大徳寺に着いたのは七時、いかにも早いので境内を散歩した。境内ではお坊さんが大勢門前を掃き清めていて、肌寒かったが爽やかな気分になった。それでもまだ時間があるので、三門金毛閣の傍に座り千利休を偲んだ。
 八時五分前、門を入り、庫裏の扉を開けて、「おはようございます」と声をかけると、直ぐに「いらっしゃい」とにこやかに住職が現れ、玄関脇の部屋に案内された。「昨日茶会があったので」と生菓子が出され、抹茶を点ててくださった。話は禅や日常生活など多岐にわたった。「ご住職、この本にご署名いただけますか」。住職はゆっくりと墨をすり、次のように署名してくれた。
  「坐亦禅
   行亦禅」
 「折角だから芳春院の中を案内しましょう」と住職自ら案内してくださった。採色を施した前田まつの像は艶っぽく見えた。仏壇の横にダスキンが見えた。「ダスキンですね」。「仏壇の掃除にはこれが一番」
 庭は桔梗の庭だったが、禅寺には相応(ふさわ)しくないと住職が「昭和の小堀遠州」と言われる故中根金作氏に依頼して枯山水の庭にした。金閣や銀閣と並ぶ京都四閣の一つと言われる呑湖閣(どんこかく)に上り、約一時間で寺を辞した。別れ際に住職は「またいつでもいらっしゃい」と優しく声をかけてくれた。

作品の一覧へ戻る

作品の閲覧