作品の閲覧

「800字文学館」

大王はピンクがお好き

首藤 静夫

 古代の大王(天皇)の多くは実在が疑わしい。その中で6世紀前半の継体大王は実在が確実視されている。
 この大王は次の3点で重要だ。

  1. ①大和でなく近江や越前、尾張という地域を基盤とした。
  2. ②磐井(いわい)という北部九州勢力との戦いに勝ち、北陸・東海・近畿から西方面に版図を拡げた。
  3. ③瀬戸内海の制海権を確立した。

 大変なものである。この大王陵とされるのが大阪府高槻市にある「今城塚古墳」である。宮内庁は別の古墳を継体陵に指定しているが、学界は今城塚古墳で決まりだ。古代史ファンとしては是非見たい。

 今城塚は大きな前方後円墳で頂上まで登れた。上部は大昔の地震で崩落し、そのため規模の割には低い山だった。
 古墳の外周は整備され埴輪が多数立ち並んでいる。だが古墳自体は雑木林に覆われ、「キツネに注意」の看板まである。大王陵の指定がない哀しさ、荒れた感じは否めない。後円部は登ったが、樹木鬱蒼たる前方部は恐くなり諦めた。
 古墳内部は盗掘され残骸しかなかったそうだ。それでも関係者が苦心し、残骸を基に修復した遺物が隣の「今城塚古代歴史館」に展示されていた。
 注目は大王の棺だ。阿蘇特産のピンク石という凝灰岩で作られている。所どころに丸みを帯びたピンクの石棺で、手触りも滑らかだ。大きいし厚い。よくぞ遠方から運んだと思う。美しいというだけの理由ではあるまい。
 この石の産地、熊本は筑紫国を治めた磐井氏の南にある。熊本には菊池という地名があり古くは久々智(ククチ)といった。魏志倭人伝に登場する狗奴国の王、狗古智卑狗(クコチヒコ)とつながる。狗奴国は邪馬台国のライバル国だった。
 すると、継体大王は狗奴国(熊本)の子孫・ククチと同盟し、邪馬台国(福岡)の子孫・磐井を挟み撃ちにしたのか、このピンク石はその記念なのか。
 館員の説明を聞きながら妄想にふけった。館員は口ぶりからして邪馬台国大和説だ。僕の妄想には付き合ってもらえまい。おとなしく退散しよう。

作品の一覧へ戻る

作品の閲覧