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「800字文学館」

『ボヘミアン・ラプソディ』を観た

塚田 實

 『ボヘミアン・ラプソディ』はロックバンド「クイーン」のボーカル「フレディ・マーキュリー」を描いた映画で、題名は、フレディ作の同名の楽曲からきている。
 この映画を観るきっかけは新聞の映画評で「ライヴ・エイドのラスト21分間は涙が止まらない」という記事を読み、「本当にそうか?」と疑い、実際に映画を観て確かめようと思ったからである。
 映画館に行くと、平日の昼間にも拘わらずほぼ満席だった。予めネットで座席を予約しておいたので助かった。

 映画は、インド系のフレディがロックバンドに入り成功するが、私生活ではバイセクシュアルからゲイに、そしてクイーンの仲間たちとの別れと再出発をテンポよく描く。テーマは人種差別、LGBT、友情と重く迫る。
 まだ涙は出ない。「やはりそうか……」。しかしついつい主演のラミ・マレックの演技と、話の展開にのめり込んでいった。クイーンの音楽も頭に残った。
 やがてフレディはエイズを患い、命が残り少ないことを自覚する。そして、孤独が最高潮に達したところで、ライヴ・エイド出演が決まる。
 ライヴ・エイドは、アフリカ難民救済を目的として1985年7月に行われたチャリティーコンサートで、多くのミュージシャンが参加、世界84ヶ国に衛星同時生中継された。会場は英米2ヶ国で、英国会場は収容人数8万2千人のウェンブリー・スタジアムだった。私がロンドンに駐在していた時、何回かプレミアリーグ・サッカーを見に行った懐かしい場所である。
 栄光、どん底、再出発という展開後のライヴ・エイド・コンサートで、クイーンは「ウィ・ウィル・ロック・ユー」や「伝説のチャンピオン」など6曲を熱唱した。観客も合唱して会場が揺れる。
 涙が自然にこぼれた。舞台を駆け回るフレディを見ていると、涙が止まらない。
「映画評通りだ。最後の熱気と盛り上がりにやられた」

 私と同世代のフレディはエイズにより45歳で亡くなった。

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