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「800字文学館」

フランスのデモに想う

野瀬 隆平

 ― 武器をとれ市民たちよ 自らの軍を組織せよ 前進しよう前進しよう ―
 何と激しい言葉であろう。これはご存知のフランス国歌、「ラ・マルセイエーズ」に繰り返し出てくる一節である。我が国歌、「君が代」の穏やかさと正に対照的である。

 フランスで起きている市民のデモ。きっかけはガソリン税の引き上げに反対を表明するものであったが、その案を政府が撤回しても収まらず、要求の対象を変えて広がっていった。一部の富裕層が優遇され弱者が冷遇されている格差への抗議から、社会全体に対する不満の爆発へと発展した。
 格差が問題であることは確かであるが、ジニ係数を見ると、0.30と日本の0.33に対してむしろ格差は小さい。家計の可処分所得を比較しても、日本よりも額が大きいし、国民の幸福度ランキングでも、日本の54位よりもずっと上位の23位にある。これらの数値を見る限りでは、日本よりも恵まれている。

 にも拘わらず、市民が積極的な抗議活動に出ているのは何故だろうか。一つ考えられるのは、民主化に至った歴史である。冒頭にあげた勇ましいフランスの国歌。これは市民が自らの血を流して王制を倒したフランス革命のときの歌である。
 日本は第二次大戦の後に民主主義の国として生まれ変わったが、これは外から与えられたもので市民が自ら戦って勝ち取ったものではない。日本とフランスとで社会に立ち向かう市民の姿勢に違いがあるとするならば、歴史的な背景が異なることが、その理由かも知れない。
 デモを扇動している主体がはっきりせず、フランス政府も誰と交渉すればよいのか困惑している。ネットでデモを呼びかけ、全国に広がりを見せるという新しい情報時代の特徴も見て取れる。

 平成の時代が終ろうとしている我が日本。数字を見る限りフランスより厳しい社会状況である筈だが、国民はあまり不平不満を表に出さず、直接行動に訴えることもなく過ごしてきた。さて、次の時代もこのまま平穏に過ぎてゆくのであろうか。

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