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「800字文学館」

わが家は消費拡大には貢献できそうにない

斉藤 征雄

 ある会合でのこと、OさんとSさんが照れくさそうにしている。何かと思ったらお互いに着ているセーターが色もデザインも全く同じユニクロ製、そういえば小生がひっかけているジャンバーもユニクロ、大笑いである。
 ユニクロは、今では若者に混じって中高年の客も多い。小生もかつては青木や青山がメインだったが、ここ数年はヒートテック素材の下着をはじめ衣類のほとんどがユニクロである。
 安いのが魅力。飲み代一回分ぐらいで冬物一式が調達できるから、デパートが泣いているのもむべなるかなである。

 年末のある日、居間の掛け時計が止まってしまった。電池を交換したが、しばらくするとまた止まる。四十五分あたりで針が上に上がらないようだ。二十年以上使っているから寿命が尽きたのだろう。
 取り外したが、長年の習慣で時計がかかっていた壁の空間につい視線が行く。不便なので他の部屋の掛け時計を移すことにした。
 その壁の前には、ピアノが置いてある。ピアノの椅子に上って不自然な姿勢で掛け時計を持って掛けようとしたとき、つい手がすべった。大きな音とともに時計は壁とピアノの隙間に吸い込まれていった。一日に二つの掛け時計が消失した瞬間だった。

 わが家はすでに終活に入って久しいから、新たに物を増やさないのが基本である。しかし時計は必需品しかも補充だから買うことにした。コンセプトは安くである。
 ハンズ、ニトリ、ビックカメラに当りをつけ物色したが、ビックカメラが値段も品ぞろえも幅が広い。ここにしようとキョロキョロしていたら、目に飛び込んできたのが「大特価五百八十円、C社の二千円の製品」のビラ。急いで三つ残っているうちの二つを買った。

 わが家では今この二つの掛け時計が、けなげに時刻を刻んでいる。無駄な装飾のまったくない白一色のその姿はとても五百八十円には見えないばかりか、気高く上品でさえある。
 消費拡大を期待されるムキには申し訳ないが、わが家は今年も貢献できそうにない。

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