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「800字文学館」

生きた言葉

大森 海太

 つい最近のことであるが、関西方面のA市で、立ち退きをしない建物があるため道路の拡張が進まず、死亡事故まで発生したことに業を煮やした市長が、市の幹部職員を呼びつけて叱責し、激高するあまり、
「今まで何年も何しとったんや。アホちゃうか。そんな家ハヨ燃やしてしまえ。お前ら行って火ィつけて捕まってこんかい・・・」
などと暴言を吐いたとか。
 ところがどういう訳かこれが秘かに録音されており、さらに悪いことにマスコミの手に渡ったことから格好のネタとなり、多くの市民から抗議が殺到した。この市長は3期目で、口は悪いがなかなかのやり手でそれなりの実績を挙げており、なかには続投を望む声もあったものの、ついには辞職するハメに追い込まれてしまった。

 市長さんの去就はともかくとして、私の興味をひいたのはそのお言葉。たいへん乱暴ではあるが、逆に何という率直で生き生きした物言いであろうか。そのままで突っ込み漫才の台本にもなりそうである。
世の中にはこれと正反対に活力のない、面白くない、分かりにくい言いまわしがそこらじゅうにはびこっている。たとえば役人の作る文書、私の嫌いな取扱説明書、あるいは国会での質問や答弁などなど。

 生きた言葉とは、その場にピッタリの単語、言いまわし。くどくど言わなくても寸鉄ポイントをおさえ、ときには隠喩や暗喩により、無駄なく的確に言いたいことを伝える言い方である。話し言葉でいえば各地方の方言、とくに関西弁ははんなりとした優美な面と、市長はんのようなえげつない面を兼ね備えていて、まことに表現力が豊かである。

 ペンクラブでは公文書や学術論文と違って、堅苦しい言い方は必要ない。私はこの会に入れていただいて、文字通り何でも書こうということで、自由な気分でとりとめのない駄文や戯言を書いては、皆さんに聞いてもらい、アレコレ冷やかしてもらうことが楽しくてならない。これからも悪文、迷文を乱発しますので、よろしくおつきあい下さい。

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