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「800字文学館」

オッパと呼ばれて

大津 隆文

 去る二月、誕生日を迎えた私はネットで何通かのお祝いメッセージをもらった。その中に二通オッパと呼びかけてくれているのがあっておのずと頬が緩んだ。
 この話は私の初孫が生まれた時にさかのぼる。放っておけば以後自分は「おじいちゃん」とか「ジージ」と呼ばれそうなので、当時まだ六十代前半だった私は、大きいパパ「オーパ」との呼び名を提案した。お蔭で以来わが家ではオーパが私の呼称として定着した。
 退職後一念発起してハングル教室へ通うようになり、「オッパ」という単語を知った。オッパは妹から兄への呼称であるが、それ以外にも女性が年上の男性を親しみを込めて呼ぶ「お兄ちゃん」といったニュアンスで幅広く使われている。韓流ドラマでもよく耳にし、恋愛感情も少し含まれている感じだ。韓国の男性はオッパと呼ばれるとその女性のために何でもしてあげようという気分になるそうで、頼まれごとを引き受けたり、ご馳走をしたりするのは当然らしい。まるで魔法の言葉だ。
 ある日教室で自己紹介の機会があり「自分は家ではオーパと呼ばれているが一度はオッパと呼ばれてみたい」と話した。すると早速オッパと呼んでくれる女性が出てきた。そう呼ばれると嬉しくてつい目尻が下がる思いがした。ただし、クラスは自分以外は全員女性だったので、唯一の使用可能な相手にオッパという単語を練習してみたかったのかもしれない。
 ハングルの勉強はやめて久しいが、時々当時のクラス会があり私もいそいそと出かける。オッパと呼ばれるからには勘定は全部自分が持たねばと思うが、心優しい彼女たちは「端数はオッパにお願い」と上手に顔を立ててくれるのでその言葉に甘えている。
 集まりには当時の韓国人の先生(女性)も参加される。彼女は孫娘の年代なので、当然のことながら私はオッパではなく「ハラボジ(お祖父さん)」となる。しかし、年長者が大切にされる韓国ではハラボジには尊敬の念が入っていそうだ。ジージよりは気に入っている。

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