作品の閲覧

「800字文学館」

北斎に白澤(はくたく)を見つけた―白澤考(その3)

大月 和彦

 両国のすみだ北斎美術館に神獣「白澤」がいると聞き、さっそく行ってみた。
 白澤は、想像上の動物。和漢三才図会によれば、聡明で人間の言葉を解し、森羅万象に通じている。中国の帝王黄帝が、東海の浜を巡視中に現れたという故事から、徳の高い為政者の治世に出てくる、とされる。

 10数年前、信州戸隠神社のある宿坊で、「白澤避怪図」という絵図に出会った。牛のような体に人間の顔、あごひげを蓄えている。目が顔と背中の左右に3つずつ計9つ、角が額と背中の左右に2本ずつ計6本ある異様な姿をしている。
 赤い蛇が現れたり、鶏が軟らかい子を産むなど奇怪な現象が起きた時、この絵図を掲げて、祈祷すれば魔除けになるという。修験地として賑わった戸隠山顕光寺が祈祷に使ったり信者に配ったりしたものらしい。

 白澤信仰は、江戸でも行われていた。かつて本所にあった目黒の天徳山五百羅漢寺に白澤像がある。羅漢像が立ち並ぶ羅漢堂の入り口に、人面牛身虎尾の動物の像が安置され、「獏王(白澤)」像とあった。
 日光東照宮の拝殿にも白澤の絵がある。将軍着座の間と大名たちが坐る部屋を仕切る杉戸に、頭に角が二本、背中に瘤、両腋から炎が出ている動物が描かれている。狩野探幽の作で、東照宮の史料には白澤と記してあるという。

 すみだ北斎美術館は、北斎ゆかりの地墨田区本所亀沢にあるこじんまりした美術館。北斎作品のレプリカや北斎に関する映像が見られる。北斎の美人画、花鳥画、風景画は有名だが動物をモチーフにした作品も多い。
 この春開催された特別展「北斎アニマルズ」には、北斎とその一門が描いた哺乳類、鳥・魚類のほか、麒麟や河童など物語や伝説に出てくる想像上の動物図が展示されている。その中に白澤の絵があった。山羊か牛のような体つき、角と目がある位置や数が戸隠神社の絵図とほぼ一致する。獏の絵とならべてあった。
 白澤が北斎作品の中にいるのを思いがけず発見し悦に入っている。

作品の一覧へ戻る

作品の閲覧