作品の閲覧

「800字文学館」

横山 安武の諫死(かんし)

清水 勝

 2018年のNHK大河ドラマ『西郷どん』第39回で、横山安武が西郷隆盛に対して、「先生は、政府の犬になられたでごわすな」と吐き捨てるように批判するシーンがあった。
 横山安武って?よく知らない人物だけに興味を持った。薩摩藩士であり、陽明学を学ぶために上京し、その実践的精神に感銘を受け、自らも実践的なことを成したいと考えていた。
 そこで、明治3年7月26日深夜、集議院の門扉に二通の建言書を差し込み、その後割腹自殺をし、28歳の生涯を終えた。
 建言書には『時弊十条』として、「旧幕府の悪弊は暗に新政府へと移っている」と新政府を批判する文言で始まり、その後に具体的な事項を十ヶ条にわたって記している。
 もう一通は、「朝鮮を小国と侮り、無意味に軍を派遣して攻めるとは諸外国に恥ずべき愚行である」と、征韓論を批判している。
 死をもって訴えた通り、明治新政府は、薩長の人事争い、役人の豪奢な生活や汚職などがあり、各地で暴動や一揆が起こり、厳しい状況に置かれていた。
 当時、西郷隆盛は維新の功労者でありながらも、地位を捨て郷里に戻っていたが、時代は彼を必要としていた。政府から岩倉具視や大久保利通が西郷に出仕を促すために鹿児島へ派遣されたが難航した。実弟の西郷従道の説得でようやく政治改革のために明治3年12月に上京することを承諾した。
 西郷は横山安武が島津久光の側近であった頃から知っており、彼の諌死も新政府出仕に少なからず影響を与えたと思われる。また、西郷が征韓論を抑えるために遣韓大使論を展開したのは、互いに通ずるものがあったのだろう。横山安武の顕彰碑の碑文は西郷が書いており、横山の憤りに同感し、その行為に共鳴した内容となっている。
 なお、横山は西郷より15歳も年下であり、西郷先生として尊敬していたことから、NHK大河ドラマ『西郷どん』での横山が西郷を批判するシーンは、おそらく作者林真理子のフィクションだと思われる。

作品の一覧へ戻る

作品の閲覧