研修会随想「カラオケ阿片論」
企業OBペンクラブ恒例の熱海合宿研修会からの帰途、電車で目を閉じて思い返していた。皆さんの情緒あふれる名文や楽しい経験談などの作品で二日間がすぐに過ぎた気がする。
私は一日目にエッセイ「西南戦争の目的」を出し、数々の意見や感想を貰い発表の甲斐があった。だがその嬉しさ以上に二日目に発表したUさんのエッセイ「大学教授の最終講義を聴講して」の中の一文が頭から離れない。八十数歳のUさんも自分より一回り以上も若い団塊世代の教授に教えられたと感無量の様子。今春W大の法学部を退官する教授の言葉、「法人を自然人並みに扱い過ぎる。(株式会社の)議決権は財産権か人格権か、について人間復活の論理を構築すべし」である。
渋沢栄一は建設中のスエズ運河を見て、株式会社制度によって大事業も民間の力で行えることを知ったという。だが同時にその制度に倫理の必要性を感得し、「算盤と論語」を唱え続けた。
現在のわが国の政治・経済・社会の問題点の多くはこの倫理観欠如の経済第一主義に原因がある。Uさんの発表内容に対しわが団塊世代の方々がどのような反応を示すか、固唾を呑んで見守った。ところが話題が堺屋太一に逸れ、この点には一言の意見や感想も出ないまま次の発表者へと移った。社会経験が豊富で頭脳明晰な方々が揃い、日頃ならば二言も三言もあって然るべきなのに。
総じて今回の二日目は一日目と比べ時間に余裕が有ったにも拘らず議論がやや低調だった感じがする。何故だろう?前夜の酒量は以前の回とあまり違わない。余興のカラオケが年々幅を利かせてきた。それで翌日になっても皆の頭脳活動がまだ鈍かったのだろうか。カラオケは阿片のように人を心地よく陶酔させ、度が過ぎると理知的な人をも暫く反知性化させるのでは。
西郷は阿片が清国を滅ぼしていく実情を知り、攘夷を志した。カラオケは日本原産、今や獅子身中の虫を抑制しないと国が亡びるぞ。
とカラオケ苦手の私は僻み心で呟いていた。