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「800字文学館」

空港でのトラブル

大森 海太

 へぼ碁仲間のN君が、数年前パリ駐在の娘さんを訪ねて初めて彼の地に行ったときのこと。待ち合わせのオルリー空港に到着したが、待てど暮らせど彼女が現れない。一人で途方に暮れて、到着出口の女性コンシェルジェにコンタクトしたところ、おしゃべりに夢中で全く取りあおうとしない。頭にきたN君はなんとか一人でタクシーに乗ってホテルにたどりつき、あとから来た娘さんとも会うことができたものの、花のパリに対する悪しき第一印象はぬぐえない。私はこの話を聞いたあと、家に帰って彼に次のようにメールした。

 初めてのパリでのトラブル、お気の毒でしたね。私も現役時代アチコチに行き、似たような経験も何度かしました。まあこれが当り前と考えておいたほうが良さそうですね。これは以前あるツアコンから聞いた話。

 この人は職業柄たえず世界を飛び回っているのだが、年に一、二回、ニューヨークとかパリとか大きな空港で、立派な身なりをした日本人の紳士がひとりぼっちで呆然自失、うつろなまなざしで身動きもせず座り込んでいるのに出会うことがある。近寄って声をかけてみると、地獄で仏にあったかのように縋りついてきて、目に涙を浮かべ「ああ助かりました。言葉も通じないし、どうしていいか分からないし、もうこんな思いをするくらいなら、いっそ死んだほうがましだと思っていました」とか。ま、こんなジャパニーズジェントルマンもたまにいらっしゃるのですよ。

 昨年の北海道大地震で足止めを食らった外国人旅行者たちは、言葉が通じないので大変困ったそうです。出かける方も迎える方も最低限の意思疎通はできるようにしておきたいです。日本で活躍している韓国のプロゴルファーたちは、英語は勿論、日本語でもソコソコ受け答えしてますよね。それにひきかえ松山英樹はアメリカでいまだに通訳を連れ歩いているとか。島国日本はまことに好いところですが、このへんだけはなんとかしたいですね。

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